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第六部貴方に捧げる薔薇
17.微笑の王子
しおりを挟むそれから数日。
エステルの戦いは始まった。
相変わらず悪夢を見続けるエステルだったが、気をしっかり持つことで打ち勝とうとしていた。
「はぁ…はぁ…」
真夜中に目を覚めることが度々あって少し寝不足になっているが、目標ができたので気をしっかり持つことができた。
「エステル?」
「エドワード様…」
廊下を歩いていると護衛を連れて歩くエドワードが声をかける。
「少しここで待っていてくれ」
「はい」
護衛は一定の距離を保ちながら見守り、エドワードはエステルに挨拶をする。
「久しぶりですね」
「はい、ご機嫌麗しゅうございます」
「騎士の装いがとても似合っている」
「ありがとうございます」
エドワードは久々に会えたエステルに嬉しくなるも、顔色があまり良くないのが気になる。
「どうしたんだい、顔色が悪いね」
「申し訳ありません」
「夜はちゃんと眠れているの?」
エステルの目元にはクマができている。
化粧で隠そうとも見る人が見れば解るので誤魔化しきれない。
「エドワード様…」
「僕にとって君は大切な友人でもあるから心配するのは当然だよ」
そっと手に触れ哀し気な表情をするエドワード。
貴族社会に身を投じながら、冷たい場所で生きていても根本的な部分は変わらない。
(お優しい王太子様…)
逆行する前のエステルは一人でヴァイオリンを奏でながら泣いていた。
声に出して泣くこともできないでいたエステルに優しい言葉をかけ慰めてくれたエドワードの優しさは今も変わらない。
(優しすぎるこの方はどれだけ傷ついたか)
信頼する臣下に裏切られ、近衛騎士にも裏切られ。
身内ににも裏切られてしまう。
(この方を守りたい気持ちは今も変わらない)
そっと触れる手が優しく温かい。
「どうかエドワード様…」
「時期に私の姉君になるのだから、もう少しご自愛して欲しいね」
「え?」
天使のような笑顔を向けながらさらりと飛んでお無いことを言う。
「だって兄上と君が夫婦になったら僕の義姉になるのだから」
「えっ…あっ…あの」
「フフッ…兄上に頑張ってもらわないとね。僕は是非とも君と家族になりたいんだ」
クロードの気持ちを熟知しているエドワードは早く口説き落として欲しいと思っていた。
じれったい二人の恋が早く実ればいいと。
ただし肝心のエステルが煮え切らない態度故に周りはヤキモキしている。
「エステル、君の過去を思えばこそ…恋に憶病になると思う」
「エド様…」
「だけど怖がらないで…君は誰よりも愛情深い人だから」
恋と言う感情を理解できないエステルを思って無理強いはしない。
「でもね、後悔をしないで」
「え?」
「自分の心に嘘をつかないで」
真っすぐで優しく慈愛に満ちた瞳がエステルを見つめる。
「兄上の気持ち、そしてエステルの気持ち…どちらも大切なのだから」
クロードの思い、エステルの思い。
どちらの気持ちも大切にしてほしい、どちらかを捨てるようなことをして欲しくないというのがエドワードの願いだった。
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