ある公爵令嬢の生涯

ユウ

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第六部貴方に捧げる薔薇

12.背負わされた運命

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エステルは一度前世で死んだ後、時間が戻った。
その為肉体の中には二つの魂が宿っていたのでプリセラの言うことは間違っていない。


「それにとっても綺麗な花を持っているわ」

「花…ですか?」

水晶玉を食い入るように見るプリセラはエステルの心の結晶に見惚れている。


「ええ、人は心に花を持っているのよ」

とり出した鏡でエステルの胸を見ると花が映し出される。


「美しい花‥真珠のように美しい薔薇よ」

「これが私の心」

「でも、黒い霧が花を枯らせようとしているの」

真っ白な薔薇が黒い霧で包むようだったが、薔薇の棘が黒い霧から守っていた。


「この棘が貴方をギリギリのところで守っているわね」

「本当だわ」

「ええ」

まるで薔薇の本体を守るかのようだった。

「誰かが貴方に呪いを長年にわたりかけ…精神的に追い詰めていたようね」

「だからこの子がありえない程後ろ向きだったのかしら?」

「ミシェル様…」

確かに前向きとは言いにくいけど、そこまで言う程後ろ向きとは思ってないエステルは不満を口にする。


「外から攻撃することができないなら内から攻撃を仕掛けるのは戦術として当然よ」

「それは…」

「ええ、貴方は幼い頃に…その」

言いにくそうにするプリセラは口ごもる。

「家族や身近な人に酷いことをされたことはないかしら?」

「あっ…はい」

「そういう子供は外からの攻撃よりも内からの攻撃に弱いのよ…穢れや悪魔に狙われやすいし」

プリセラの言うことは的を射ていた。
幼少期から虐待まがいなことをされてきたエステルは精神が限界だった。

「悪魔ってのはより純粋な魂を持つ者はごちそうだからね」

「けど、呪詛をしかけられたということは…術者がいるはずですよね」

「そうね…だけど術者を特定するのは難しいわ」


既にエステルを恨み憎んでいたジュリエッタは王都にいない。


(私を憎む人間が別にいる?何故…)


呪詛を仕掛ける程に憎む人間。
ただしそんなリスクを冒す必要があるのだろうか。


(前世の時のように毒殺する方が簡単なのに何故?)

呪詛を仕掛ける時、生贄が必要になる。
人を呪わば穴二つと言う様に呪う側もリスクがあるので、そこまでの危険を冒してまで呪詛をかける理由が解らない。

アルスター家を羨む人間はいるだろうが、アルスター家よりも地位が高い貴族はいくつもある。

それに狙うならばエステルよりも次期当主となるロバートを狙う方が確実だった。


「それにしても不思議ね」

「え?」

「何度水晶玉を見ても貴方の遠い未来は見えないわ」

プリセラは占いで未来を読もうとしてもエステルの未来は見ることができない。


「ただ見えるのは朧げな月だけ」

(朧げな月…)

「エステルちゃん、貴方はとてつもない運命を背負わされた乙女よ」

(とてつもない運命…)

プリセラの言葉が重くのしかかる。


「運命を背負わされた乙女?」

ミシェルはプリセラの言う意味が解らず首をかしげるもエステルは顔を俯かせていた。


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