ある公爵令嬢の生涯

ユウ

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第六部貴方に捧げる薔薇

11.宮廷魔女

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あの夜から悪夢を見る回数が増えて行き、エステルは眠れない夜が続いた。


(毎晩だなんて…)


逆行してから時折悪夢を見ることはあった。
けれど、カルロとの婚約が破棄となってからは怯えることは無くなった。


そう思っていた。
けれど、本当は心の片隅に不安があった。


「ちょっとアンタ!」

「ミシェル様?」

「何よ、その顔信じられない!」

朝から耳に響く声で叫ぶミシェルに眉を顰める。


「ミシェル様…」

「肌も髪も荒れ放題じゃない!しかもその不細工な顔は何よ!」

常に身なりは美しくがモットーであるミシェルは今のエステルの姿を見て速攻でダメ出しをする。


「ファッショチェックをするまでもないわね」

「はぁ…」

「アンタ、本当に大丈夫じゃないでしょ」

普段ならばもっと小言を言いたい所だが、言う気にもなれなかった。

それほどにまでエステルは弱り切っている。
ただし、ミシェルかユランぐらいしか気づかないようにエステルもポーカフェイスを装っている。


「アンタ、私の執務室に来なさい」

「え?」

「いいから来なさい!アンタに拒否権はないわよ」

無理矢理首根っこを掴んでズルズル引きずられていくエステルはされるがままだった。




そして連れてこられた場所は、宮廷師団の魔導士や魔術師の執務室となっている場所なのだが。


「あらぁ?ミシェル、その子は?」

「私の友人です師匠」

「やぁだ!可愛い!!」

長身の女性(男性)だった。


「ひょっとして白薔薇の騎士様!」

「はい?」

「きゃー!やっぱり想像していた通り素敵!」


他にも似たような人種がエステルの周りを囲む。
全員似たような人種で、ミシェルと同じく体は男、心は乙女だった。



「お邪魔いたします。エステル・アルスターでございます」

「硬くならないで?私はプリセラ・サマリーよ」

ウィンクする姿はどう見てもお茶目な女性に見えるが、微かに声が低く喉ぼとけが出ていることから男性であることを自覚する。


「師匠は宮廷魔導士でもあり、優れた魔女よ」

「いやん、ミシェルったら」


魔女と言っていいのか疑問だが、本人は魔女だと豪語していた。


「それにしても貴方…とても魔力が強いようね」

「え?」

「魔力が強すぎる人は穢れに当たりやすいのよ」


プリセラはエステルの頬に触れながら視る。

宮廷魔導士は他の魔導士と違い視る能力に特化している。
優れた眼力で災いから逃れる術を持ち、身を守ることも、外敵から主を守ることもできる故に重宝されている。

「最近悪夢に魘されることはなくて?」

「はい…」

「それも夢とは思えない程のリアルさがあるわね?」

「はい」

的確な診断をされているようだった。
アルスター家専属の医師でもここまで的確に診断はできない。


「貴方、誰かに呪いをかけられているわね」

「師匠!」

「しかもかなり質の悪い呪いよ…精神的に追い詰める類のもの」


水晶玉を取り出し、映し出したのは真っ黒な影と魔法陣だった。

「これは黒魔術の一種で、呪詛の一種よ」

「なんですって!!」

プリセラの言葉にミシェルは声を荒げた。


「おそらく貴方が悪夢を見続けるのも、呪いをかけた術者が糸を引いているはず」

「一体誰よ…」

「呪詛とは憎しみや嫉妬の念が強ければ強い程威力を増すわ」

この世界には人を呪い殺す術も存在する。
元は優れた魔導士だったが闇落ちしたり、犯罪に手を染めた悪の魔女と呼ばれている。


「かなり強い呪いを受けている…でも不思議ね」

水晶玉を通してエステルの魂を見るプリセラ。


「何がです師匠?」

「普通は魂は一つなのだけど、貴方は二つの魂を持っている」

「二つ…」

プリセラの言葉にエステルはビクついた。


本来人の体に魂は一つしかないのだが、エステルだけは違う。


一つの体に二つの魂があるという特異稀な体質だったのだ。
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