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第六部貴方に捧げる薔薇
6.本当の思い
しおりを挟む無理矢理連れてこられた場所は、秘密の花園だった。
クロードの秘密基地で、あの夜連れてきてもらった場所。
「ここ…」
「もう忘れたか?」
「覚えてます」
クロードにとって特別な場所で、この場所にエステルを連れて来たあの日誓った。
弱いエステルに寄り添い守ることを。
「この場所で告げた思いは変わらない」
一輪の薔薇を手折り差し出す。
「お前が拒否しようと俺はお前を愛し続ける。騎士となり王家を守るようになろうとも…お前の騎士は俺だ」
「クロード様」
「俺が聞きたいのは一つだ。お前の正直な気持ちだ」
ここでは身分も忘れただ一人の少女として答えて欲しかった。
「王子でもなく一人の男として俺はお前を愛している」
「私は…」
貴族の令嬢でもなく、王族を守る立場のアルスター家の娘でもなく一人の少女としての答えは…
(私はどうなの…?)
未来に起こりうる悲劇を回避することが、かつてエドワードに存在意義を与えて貰った恩返しと思っていた。
今もその気持ちが強くなったのはエドワードへの憧れもある。
(私はエドワード様をお守りしたい…だって)
無意識に脳内に浮かんだのは一人だった。
(だって殿下はエドワード様を愛しているもの…)
そこでようやく気づく。
どうしてここまで頑なに騎士になろうとしたのか。
騎士になって父親の後を継ぐだけならば、ここまで頑なになる必要はないはずだったが…
(私は王族を守ると同時に殿下を守りたかった…)
王宮でも微妙な立場のクロードの盾となり立派な跡継ぎになればクロードを庇える。
優しくて弱さを持つクロードは敵が多い。
貴族派の人間もクロードを利用する輩が多いが、公爵家がクロードを守れば簡単に手を出せない。
(私は…なんて馬鹿なの)
クロードを守りたいのは王族だから。
尊敬するエドワードの兄だからと思っていたが間違いだった。
「私は貴方をお守りしたいのです」
「エステル?」
「騎士として一人前になり、王族を守る護衛騎士になれば貴方をお守りすることもできます」
近衛騎士の中でも王族直属の護衛騎士は特別な役職とされる。
ただ守るだけではなく、助言をすることもできるし。
王族に向ける悪意の矛先を変えることも可能だった。
前世での悲劇は、王太子と王太子妃にの傍にいる護衛に侍女達が忠誠心を持って仕えていなかったことから最悪な事態となった。
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「護衛騎士となり王族を脅かす者からお守りしたかったんです」
その王族の中に入っているのはもちろんクロードもだ。
「お前馬鹿だろ」
「はい、私ごときが馬鹿で…」
「もっと早く言えよ!」
「え?」
クロードは頭を抱える。
やることが色々ぶっ飛んでおり、言葉も足らない。
「つーか今のお前じゃ騎士団でも上には行けねぇよ」
「何故です!」
「お前のその視野の広さと思い込み激しさだ。貴族の令嬢の教育を受けながら何でそんな常識なことも解らねぇんだよ…よくメトロ学園の試験受かったな」
「酷い言われようです」
騎士と言っても近衛騎士は騎士の憧れであると同時にあらゆる面に優れていなければならない。
いつ何時王家の命を狙う輩から守り、時には騎士団を指揮しなくてはならない。
「今のお前じゃ騎士団を指揮するだけの力量はねぇよ。そんな狭い視野じゃ仲間を死なせる」
「私が‥‥」
ズドーンと落ち込むエステルはネガティブモードまっしぐらだった。
「エステル、騎士として生きたいなら周りをもっと見るんだ」
「周り?」
「お前は今まで悪意に満ちた人間を見て来た。だからこそ解るモノもある」
悪意に関しては敏感なエステルだが好意に関しては疎過ぎた。
「鈍いことを正当化するな」
「はっ…はい」
「お前のこれまでの環境はツライものだが、それもひっくるめて俺はお前が好きだ」
色々考えても答えは出ない。
エステルは考え過ぎた故に答えを出すことができなかったが、答えはそこまで複雑ではなかった。
「今は親愛の情でいいんだ。未来は解らないからな」
「クロード様」
「ただ、ずっとじゃない」
この先何があっても変えて見せる。
「お前は俺を好いている…それは間違いないだろ」
「はい、私はクロード様をお慕いしております。ただ恋愛感情かと聞かれると解らないのです」
恋というモノが貪欲な感情であれば、この思いは違うと断言できる。
「私は貴方様に見返りを求めたことはありません。ただ幸せになって欲しいと」
「は?」
「ただ、それだけです」
恋は下心からくるもので相手の幸せを願うだけのものは愛情であるならば恋とは異なっていると思っていた。
しかし、それはエステルの勝手な間違いであり。
恋よりも強い慈しみの念から来ており。
一途な愛であることを本人は気づいていなかった。
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