ある公爵令嬢の生涯

ユウ

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第六部貴方に捧げる薔薇

4.身勝手な八つ当たり

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ユランに相談に乗ってもらった夜。

巡回をしながら空を見上げながら考えこんでいた。


「薔薇の花」

庭に咲く深紅の薔薇を見て、クロードを思い出す。

孤高の薔薇は美しい。
棘を生やしながら気高さを失うことがない薔薇そのものようなクロードを見て来た。


ミシェルには王都に戻る前までに答えを出せと言われた。


「もしかして知っていたのかしら」

あれだけ怒っていたミシェルはずっと早い段階からクロードの意図的行動に気づいていたのかもしれない。

それをグチグチ悩み、答えを出さないでいることを怒ったのか。


「私はどう答えを出すべきなの…」

エステルはクロードのことが好きだが、その感情がクロードと同じとは思えない。


信頼し慕う気持ちはあっても。
クロードがエステルに向ける感情は親愛の情だと思っているし、激情を抱いていない。



「こんなに悩んだことなかった」

前世ではここまで悩むことはなかった。
今さらながらだが、カルロから愛されることはなかったし、他の異性から好意を持たれることはなかったのだから。


「もうすぐあの方が嫁いでくる…その為にも私はなんとしても護衛騎士にならなくては」

逆行する前に記憶が正しければ、猶予はあまりない。
後一年も満たない内に運命は動き出す。


「まだ歯車は完全に変わっていない…だからこそ私は女性騎士としての護衛にならなくては」

ぎゅっと手を握り前を見据える。


「失敗は許されないのだから…」


「何の失敗だ?」

「誰!!」

後から抱きしめられエステルは剣に手をかけようとするも、その手を抑えられる。


「憂いの表情も良いが、隙だらけだ」

「ひゃっ…」

後から抱きしめ、そのまま頬にキスをする。


「何をするんですか…」


「時間を考えろ、もう遅いんだ」

「うっ…」


真っ当なことを言っているが、非常識なのはどっちか解らない。


「でっ…クロード様」

「惜しい、ペナルティーでキスできたのに」

「なっ…何をおっしゃいます」


また頬が赤くなるも必死に隠すエステルは煩くなる心臓を抑え込む。


「こんな夜更けに何処に行く気だ。巡回場所は別だろ」

「いえ…」


どうして巡回場所まで把握しているのか問いただしたい所だが、今は聞かないでおくことにする。


「クロード様はまだお仕事を?」

「ああ、溜まっていた書類が多くてな」

(こんな時間まで…)


少しだけ疲れて表情に服装がヨレヨレになっている。
普段はきっちりと着こなしているのに、それだけ多忙だったということだ。


(普段からお忙しいのに…)

王族の執務に諜報員としての仕事。
そして今は貴族派達の動向を探りながら、エステルとの婚約と体がいくつあっても足らないのだ。


「そんな顔をするな」

「クロード様」

困った表情でエステルの頬を撫でる。
優しくいこの手にどれだけ救われて来たか解らない。


(どうして…)


何時も一歩前に進み、先を見据えるクロード。
一人で背負い込んでいるのはクロードの方ではないのかと思ってしまう。

「ただでさえお忙しいのに」

「そうだな。だが至福の苦しみだ」

「え?」


疲れているのにどこか嬉しそうな微笑を浮かべる意味が解らない。



「俺はずっと空っぽだった…この手に残る物はなかったんだ」

両手を見つめながらどこか切なげな表情をする。

「姉上が嫁がれてからずっと虚しいと感じていたんだ」

最愛の姉がいなくなり、宙ぶらりんな立場になったクロードは満たされることはなかった。


「そんな時に俺の心を満たしてくれる、花を見つけた」

「クロード様…」

「お前を見つけた」

孤高に生きて来たクロードはエステルと言う華を見つけた。


「始めて欲しいと思った…どんな事をしても欲しいと思ったんだ」

「あっ…」

「お前を傍に置けるなら俺はどんなことでもできる。この程度どうということもないんだ」

エステルを抱きしめ頬にキスをしながら甘く囁く言葉にまた体が動かなくなる。

「俺と同じ気持ちを返せなんて言わない」

「クロード様…」

「ただ、少しでも好いてくれるならそれでいい」


強引なのに優しいクロードの想いはエステルを悩ませる。

(貴方は優しすぎる!)


同じように愛してくれなくてもいいと言うクロードに何故と思う。


「どうしてそんなに優しくするんですか…私に!」

「エステル?どうした…」

自分の気持ちも定まらないのに勝手なことを言うエステル。

勝手すぎると解ってながらもクロードの優しさを甘すぎると思ってしまう。


自分勝手な考えに嫌気がさしてしまう。
答えを先延ばしにしている自分が悪く、過去に囚われ続けている自分が悪いと解っていても耐え切れなかった。


優しすぎるクロードの気持ちが居た堪れなかったから。


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