ある公爵令嬢の生涯

ユウ

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第五部見習い騎士

22.抱擁

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憂鬱な気分なエステルとは正反対に空は雲一つなかった。

「最悪な気分だわ」

出来ることならすっぽかしたいが、ヴィオラの良い方では相手はそれなりの身分だと言うのが解る。

「財産目当てか公爵家の繋がりが欲しいだけなら楽なのに」

そう言った人間ならばやりやすいし、簡単に扱うことができる。

「あのお母様が随分乗り切問うことはかなり頭が働く人ね」


王侯貴族か、もしくは官僚か辺境伯爵の可能性が高いのでは?と思考を巡らせる。

「私が公爵を継いだ時にメリットになるなら貴族派というのは考えにくいわ」

貴族派の人間は王室と高位貴族がこれ以上絆を深めるを良く思っていないし、今は静かだけど水面下で争っている。


静かな時こそ用心する必要がある。


「婚約なんてしている時じゃないのに、何を考えているのかしら」


綺麗にドレスアップされた姿を見る。

「違和感ありすぎだわ」

学園では制服だが男装の麗人として振る舞っているエステルがドレスを着ることは実家に帰って来た時ぐらいだった。


実家に帰っても極力女性らしい恰好ではなく騎士としての装いをしている。


「気高き白薔薇…」

部屋に飾られている白薔薇を手に取る。

「私は可憐な花になって殿方に手折られる気はないわ」


棘の道であっても、この道をまっすぐに進み続けて、最悪の事態を回避しなくてはならない。


「やっぱり、この婚約は阻止しなくては」


心ある男性で、婚約を無理強いしないというあたり良識があり心ある人かもしれない。

けど、だからと言ってエステルはヴィオラのようには慣れないと心の底で思っている。


「私は…」


白薔薇を手折ろうとした時だった。


扉が開き誰かが入って来た。


約束もなしに勝手に入ってくることに不信感を抱く。


「誰です?勝手に入ってこられては困りま…」

相手を見ることなく咎めようとしたが、部屋に入って来たのは見知らぬ人間ではなかった。



「エステル?」


「クロード殿下!」


部屋に入って来たのはクロードだった。



「なっ…何故貴方が」


部屋に入って来たクロードに戸惑いを感じるエステルは困惑しながらも思考を巡らせる。


もしかして部屋を間違えたのかとも思ったが、直ぐに頭を下げ挨拶をする。


「クロード殿下、ご機嫌麗しゅうござ…」

無言のままクロードはエステルに近づき手を伸ばす。


「クロード殿下?」

「エステル」


顔を上げようとした瞬間、クロードはエステルに手を伸ばし抱き寄せた。


「えっ…」


「エステル!!」


突然の事で身動きが取れずされるまま強く抱きしめられてしまい、互いの鼓動の音が聞こえた。
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