ある公爵令嬢の生涯

ユウ

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第五部見習い騎士

19.通せんぼ

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通常の公務を終えたクロードは気配を消して隠れていた。


「クロード様!!」

「何処にいらっしゃいますの!!」

「今夜のお相手は是非私を!」

王宮内で令嬢達に追いかけ回されていた。

彼女達からダンスの相手のお誘いを受けるも軽く流していたが、最近はとてもしつこく迫ってこられ煩わしさを感じたのか、逃げる選択をした。

本当ははっきりと断りたいが、彼女達は貴族派の御令嬢。
背後には厄介な連中がいるので、ここで双方の関係に溝を作るわけにも行かず強く言えなかった。

普通は自分より身分の高い人間に声をかけることはできないのだが、クロードの母親が平民出身という理由もあり強く言えなかった。

‥‥というよりもけしかけているのが彼女達の父親なのだった。


現在王族派には王妃にロバートとが筆頭で、彼等は王太子のエドワードを次代の国王と考えているのだが、王族派に不満を持つ貴族派はクロードを押し立てて王にしようと考えている。

次期国王の後見人となればその権力は絶大なのだが、クロードにその気はない。


「クソっ…しつこい!!」

何処に逃げても背中にアンテナでもあるのか、探し出してくる。

見つかるのも時間の問題だった。


(ヴィオラ様との待ち合わせに間に合わないだろうが!!)


この後ヴィオラとお茶をする約束をしている。
大事な話があると部屋に呼ばれているのにこれでは間に合わない。


(ハイエナが!!)

恋に恋する乙女に向かってあまりにも酷かったが、クロードはエドワードよりも冷静で客観的に人を見ていた。


社交界での生き方を熟知しているので下手なことをすればこちらが取り込まれてしまう。

常にポーカーフェイスを忘れことなかれ。
笑顔を張りつけ相手の心を読み、尚且つ自分の心を知られな。


ただ、女性と言うのは時に男よりも軽薄で貪欲だった。

己の欲しい物の為なら手段を選ばず、利用できるのは利用する傾向が強い。


現に今クロードを追いかけてきている令嬢も、先日までは仲良くしていた友人を踏みつけてクロードに言い寄っているのだから。


(しんどい…)


社交界にいると心がすり減り、諜報活動をしている方がいくらかマシと思っていた。


「おわっ!!」

「ユラン?」

令嬢から逃げようとしていたら前方不注意でユランにぶつかる。


「まぁ、クロード様。ご機嫌麗しゅう」

「ミシェル」


隣にはミシェルもいた。


「そうか、お前達は見習いで来ていたのだな」

「ええ、私は宮廷師団に、ユラン達は騎士団ですわ」

久しぶりにクロードに会えて嬉しそうにするミシェル。

「クロード様!!」

背後から聞こえる声に顔を顰める。

立ち止っている暇はなかったのに背後から聞こえる声にしまったと思った。



「お待ちくださいクロード様!!」


令嬢達が追いかけて来るが…


「貴方達、止まりなさい」

「は?」

「ここは声を荒げる場所ではないわよ…成人した女性がなんて見っともないのかしら?あげく第一王子殿下に声をかけるなんて身の程を知りなさい」

「なっ!!」


クロードを庇う様に言い放つミシェルに一人の令嬢が睨みつける。


「あら?社交界では身分の高い貴族を睨むのが礼儀なのかしら?私をご存じなくて?」

「そんなの知ってます!サイレス伯爵…」

「ひぃぃ!!魔人魚のミシェル様!!」


ミシェルに気づいたのか令嬢達は真っ青な顔色になる。


「貴方の家の教育かしら?」

「滅相もありません」

「即刻立ち去りなさい。クロード殿下はこの国の第一王子よ!!無礼は許されません!」

「くっ…はい」


ミシェルは圧倒的な威圧感を与え身分で叩きつける。

サイレス家北を支配する貴族として恐れられている。
地位は辺境伯爵であっても侯爵家以上の地位を持ち王族の信頼も厚く名ばかりの貴族や領地を持たな宮廷貴族などが叶う相手ではなかった。



悔しさを隠すことなく去っていく令嬢は去り際にミシェルを睨みながらも言い返すことは叶わなかった。



「クロード様、お急ぎでしたのでしょう?言ってください」

「悪い、ありがとうミシェル」

(はう!!)

困ったように笑顔を浮かべるクロードにミシェルは胸がキュンと苦しくなる。


(クロード様ぁぁぁ!!)


さっきまでの立派な振る舞いは何処に行ったのか。


「お前、本当に馬鹿だろ」

「うっさいわよ」


「クロード様の笑顔で私は満たされるのよ」


落ち込んだり怒ったり失神したりと忙しいミシェルの冷めた目を向けるユランは、学園と変わらないと思った。


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