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第四部帰省とお家事情
44.無慈悲
しおりを挟むリズベットの持つ水晶によって映し出されたものは見るに堪えない光景だった。
撮影された場所は、結婚式披露宴だった。
花嫁と花婿に挨拶する招待客が映し出され、既に帰る準備をしている最中、引き出物を配られていた。
『こんな貧相なコサージュ要らない』
一人の少女が引き出物に贈られた薔薇のコサージュを投げ捨てていた。
『公爵家の親族と聞いていたけど結婚式も貧相だし、地味ね。引き出物が花一輪なんて』
『所詮は格式だけだろう。ヘレンの結婚式はこんな地味な式よりも豪勢な物にしてあげよう』
『本当?嬉しい!』
他人の結婚式で言うべきことではないにも拘らず隠す気がないようにも聞こえた。
「なっ…なんて無礼な!!」
映像を見ていた貴族の夫人は耐え切れず声を荒げる。
「めでたい席でなんと非常識な…アルスター伯爵、私達を馬鹿にしているのか!!」
「そのようなことは!!」
「何かの間違いですわ!!」
真っ先に怒りを露わにしたのは、花嫁の父親だった。
当時は公爵家の親族でありながらも慎ましやかな結婚式をしていたのだ。
新郎新婦の願いで慎ましやかでも親しい人に祝福して欲しいとの願いだった。
その理由として、結婚式を挙げた主役の二人は慈善活動に力を入れ、質素で慎ましやかな生活をしていたからだった。
「娘は聖女エルキネス様の信仰していましたのよ」
「自分達が贅沢しないで貧しい子供達に寄付をしたいと言っていたと言うのに…今後貴方達との付き合いは考えさせてもらおう!」
「そんな!!」
有力な資産家であり、ダイアモンド鉱山を持つキグナス侯爵家と手を切られてしまう。
彼等は名門貴族であると同時にあらゆる事業に手を出しており、融資もしている。
ラウルも二人に融資を頼んでいたのだが、映像を見せられカンカンに怒って融資どころではなくなった。
「貴方のような無礼な方とはお付き合いできませんわ」
「奥様!」
キグナス侯爵家は大貴族に匹敵する一族。
中でも人との繋がりを大切にし、貧しい子供達にチャリティーを行っている為に、贅沢は好まない。
イベント行事にはちゃんとした服装をするも、湯水のようにお金を使うことは許されなかった。
「まぁ、成金のジュリエッタ様ですものね…」
「ええ、身分卑しき方は行動も振る舞いもお下品でしたのね」
「他人の結婚式で信じられない」
ヒソヒソと囁く声はもちろんジュリエッタの耳に聞こえていた。
そんな中、映像は続く。
家族と離れてエステルは引き出物の髪飾りをつけて嬉しそうにする。
近くを通るのは質素だが品の良い花嫁衣裳を身に着けた令嬢だった。
『ご結婚おめでとうございます…』
『まぁ、ありがとうございます』
花嫁に申し訳なさそうな表情をしながら一輪の花を差し出す。
『ありがとう天使様』
『あっ…あの、一曲弾かせていただいてもいいですか?』
『ええ』
お祝いにプレゼントした白百合一緒に一曲プレゼントしたのは幼き頃のエステルだった。
演奏技術はまだまだだったが、心の込められた演奏だった。
『女神様の祝福がありますように』
そう言い残してお辞儀をするエステルを見た花嫁は本当に嬉しそうだった。
その後直ぐだった、事件が起きたのは。
『お姉様、私もそれが欲しいですわ!』
ヘレンがエステルの引き出物を欲しがり強引に奪った。
妹に譲らなかったことで両親はエステルを怒鳴り、突き飛ばし、蔑んだ表情を送る。
母親に突き飛ばされシャンパンをひっくり返しドレスが汚れても、誰もエステルを心配する者はいない。
そのまま背を向ける。
そこに現れたのは…
『エステル…みっともないぞ』
『カルロ様…』
『ヘレンに譲らなかった君の自業自得だ。姉として恥ずかしくないのか』
傷かうこともなく責めるようなことばかり言うカルロ。
『申し訳ありません』
『ヘレンに謝ってくれ。今後はヘレンを悲しませるような真似をしないでくれ』
そう言いながら去って行くカルロは幼いとはいえあまりにも酷い言葉だった。
『ふっ…ごめんなさい』
消え入りそうな声で泣いているエステルはあまりにも哀れだった。
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