ある公爵令嬢の生涯

ユウ

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第四部帰省とお家事情

34.失望

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騒ぎは既に収拾がつかなかった。
ここでヘレンを窘めても状況は悪化するだけだったが、カルロまで一緒になるとは思わなかった。


(ここまで馬鹿だったの?)

前世ではもう少し頭のいい人だと思っていた。
少なくともエステルにはそう見えていたのだが、思えば言動や行動は常識ある人間の態度ではなかった。

そもそも良識のある人間ならば、婚約者の妹と恋人同士にならないだろうし。
そうなってしまってもある程度節度を守るはずだが、真実の愛を貫いたことを正当化して、さもエステルの為だと言わんばかりに婚約破棄をした。

エステルが自分を選んでくれないことを言えば咎められ不愉快そうに顔を歪められ罵倒され、あげくの果てには見せつけるように二人の愛を語り合っていた。

婚約式でカルロの為に作った曲を弾かされる等、思い出せば最低な男だったかもしれない。

(今思えば私も不純だったわ)

ただ誰かに愛されたい。
優しくされたいと言う感情を抱いていたかもしれない。

(私はどうしてこんな男を好きになったのかしら)

今から考えれば汚点だった。
結婚しなくて良かったと心から思う。



もはや何の感情も抱かなかった。

「カルロ様、これ以上失望させないでくださいませんか」

「何?」

騒ぎを大きくしないのはカルロに心残りがあるわけじゃない。

ヘレンに愛情があるからではない。

「私は貴方に最大の経緯を持って接して参りました。裏切りを許し、辱めを受けても許しました」

「なっ…無礼な!」

「無礼なのは貴方ではありませんか。貴方は妹の浮気をし私を、アルスター家の名に泥を塗ったのです」

今まで遠慮していたがエステルがハッキリ言われ唖然とするカルロ。

「そんな、お姉様酷いわ」

「私は、貴方達の幸せを望んでました」

例えどんなに侮辱をされようとも妹なのだから憎いはずはなかった。

ただカルロに対しては…

「私はエドワード様の親族であるからこそ貴方に誠意を尽くしました」

「なんだと!」

これ以上ない程の屈辱的な言葉だった。
エドワードはカルロにとって忌むべき存在でもあるのだから。


「私はエドワード様に恥をかかせたくありませんでした」

「エステル…」

泣きそうな表情をするエドワードはクロードに支えられる。

「しっかりしろ」

「はっ…はい」

初めて聞いたエドワードは今にも泣き崩れそうになるが必死に耐える。


「王太子様に恋慕の情を抱くなんて…しかも婚約者がいたのに!」

「浮気じゃないか!」

(それを貴方達に言われたくないわね)


確かに褒められたものではないが、エステルの感情はとても純粋なものだった。

横恋慕したヘレンとは訳が違う。


「私は未来の王となるエドワード様を尊敬し、敬愛しておりました。それが罪となるのですか」

「都合のいい言い方だ!」

「そうですね…ですが、所詮は政略結婚。私達の間は家同士の結びつきですわ」

冷たく目で見下すように言い放つ。
これまでカルロはエステルに婚約者としての情をかけてくれたことはあっただろうか?

「私は王太子様をお守りする貴族として振る舞っておりました。私の主はエドワード様でございます」

今も昔も変わることのない思い。
ずっと心の拠り所にして、心の支えにしていた。

これから先も、この思いは決して変わることはないと断言できる。


「俺を侮辱するのも大概に!」

「大概にするのはお前だ」

怒りを抑えていたクロードが我慢できずに睨みつける。


「黙って聞いていれば、何様だ」

「クロード殿下!」

「カルロ、お前は暴力を振るう人間は最低だと言ったな?ならばお前はどうなんだ?」


クロードの言い多いことが全く分かってない。


「お前は浅はかだ。自分の言った言葉に責任も持てないのか…なぁ?フレッツ侯爵」

後を振りむき睨みつける。


そこには真っ青な表情をしたカルロの父、フレッツ侯爵がいる。

「それとも、エステルに何か恨みがあるのか?」

「滅相もございません!」

ガタガタと震えながら頭を下げる。
その隣で妻も怯えている理由が全く分からないでいた。

「カルロ、お前は何時からそんなに偉くなったんだ?二人の公爵令嬢を侮辱し暴力を振るうということは不敬罪だぞ」

「リズベット様はエドワード様の従姉ですよね?」

黙っていたミシェルが告げる。


「エステル嬢は公爵令嬢であり、ヘレン嬢は分家の娘…地位が上の方に無礼を働くのは礼儀がなっていないのでは?貴族の令嬢として失格よ」

「私は‥っ!!」

反論しようとしたが言葉を遮るようにガイナスが声をあげる。


「誠におっしゃる通りです。立場を弁えず申し開きをする言葉もございません」

「兄上!」

「二人の教育がなっていないのは我がフレッツ侯爵の不徳とすることでございます」

ガイナスが前に出て膝を折り頭を深々と下げる。


弟に変わり兄が頭を下げ謝る姿はなんとも不憫に思えてならない。

対してカルロは謝ろうとしない姿を見て貴族達はさらに陰口を言う。


「兄君に頭を下げさせてご自分は謝らないなんて」

「どこまで傲慢ですの」

「お気の毒に」


ガイナスに同情の視線が集まり、カルロの評価はがた落ちだった。
既に婚約発表の時でがた落ちだったが、暴言を吐き続けエステルに暴力を振るったことでさらに窮地に追いやられていた。


「精々弟と義妹の教育に努めるんだな…」

「今回のことは貴方達の問題で済みません。いいですね」

クロードとエドワードは厳しく言い放つ。


「罰は追って下す。いいな」

「はい!」

「承知いたしました」

まだ震えが止まらないフレッツ侯爵夫妻。
公の場でこれほどの屈辱を味わい、この後下される罰は軽くないと言うことだけは解った。


「今すぐ二人を連れて行け…俺の気が変わらない内にな?」

「ハッ!失礼します!!」

脅しをかけられ、フレッツ侯爵夫妻はヘレンとカルロを無理矢理引きずって行く。


「母上!何をなさるのです!」

「お義父様!」

無理矢理連行されていく二人は終始文句を言って醜態を晒していたが、夜会で騒ぎを起こしたせいでアルスター伯策の地位は地に落ちてしまい。

その火の粉を被ったフレッツ侯爵家は残り少ない友人も離れてしまい孤立してしまった。


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