ある公爵令嬢の生涯

ユウ

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第四部帰省とお家事情

33.愚か者

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エステルの鮮やかな振る舞いにより形成逆転となった。
あくまでヘレンを否定することはしないで肯定し、最初にリズベットの行動を過ちだと言ったことで流れが変わる。

どんなに正当な理由があっても手を出していいという道理はない。
ここでヘレンを否定して悪者にすれば、いずれ綻びが生じるし、先に手を出したという事実を面白おかしく噂を流す人間もいるのであえてリズベットのしたことを咎める。



そして次にリズベットが何故手を出したか公にする。
社交界ではリズベットが非の打ちどころの無い完璧な令嬢であることは誰もが知っているので、感情的になることすらまずないのだ。

その理由が自分の為ではなく他人の為に怒って、自らの手を汚してまでも守ろうとした理由がだせば批難は免れる。

最悪の場合、エステルが火の粉を被る覚悟だった。
しかしすべてを円滑にするにはエステルの意図する行動をリズベットが読み解かなくてはならない。

プライドだけ高い令嬢だったなら不可能だが、思慮深いリズベットはいち早く気づくことができた。

ヘレンに謝罪の言葉を述べることにより事態は納まり、リズベットを批難する人間はいなくなる。

万一にでも少数が批難しても、大勢が賛同しているので逆に異論を唱えればどうなるかは解り切っているのだ。



‥‥が、エステルがそこまで想定したわけではない。
リズベットの名誉を守れればいいぐらいにしか考えておらず、ヘレンをさらし者にしようとか、糾弾しようとか考えていなかった。


ただ穏便に事を済ませればと思っていたに過ぎなかった。


なのにそのエステルの配慮をヘレンとカルロは叩き潰したのだ。



「そんな謝罪で納得できませんわ!」

ヒステリックに叫び怒鳴りつけるヘレンにエステルは顔を顰める。


(この子はどうして…)

リズベットは寛大な心を持ってヘレンを咎めなかったのに、どうして解ろうとしないのか。


「エステル!君はそれでもヘレンの姉か!!」

そして、カルロも同様にヘレンと一緒に怒鳴りつける。


(この状態で言うの?)

全ては円満に解決とは言わないが、なんとか収めることができたはずだった。



にも拘らずこの二人は自分達の行動でさらに立場を悪くしていることに気づいていない。



「馬鹿でしょアイツ等」

「ああ、馬鹿だ」

「馬鹿です」


一部始終を見ていた一同はうんうんと頷く。
ミシェルはありえない程馬鹿だと言い、続いてクロードもエドワードも賛同した。


「エステルの温情を潰すなんて」

「俺は甘すぎるアイツに時折イラっとくるぜ」

「同感です」

彼等はエステル寄りなので贔屓目だと言うことも承知だったが、散々酷い仕打ちをした妹と婚約者を庇い立てする必要が何処にあるかのかと思った。

むしろあのままリズベットに殴られていればよかったのだ。


「あー無理だろ」

そんな三人にユランは手を振り無理だと思った。

「無理だと思います」

アリスも頷く。


「僕も無理だと」

「エステルさんは優しか」

「ある意味甘すぎますが」

ルークもサブローもジークフリートも頷く。
学園での出来事を思い出し、エステルの甘さを指摘する。


「アイツがそこまで腹黒なら、あの馬鹿女はとっくに国外追放か流罪だろ?」

「アンタ、普通に怖いこと言わないでよ」

ユランはしみじみと言うが笑えなかったミシェルは顔を引きつらせる。

「同感ですわ」

「メサイア伯爵令嬢…」

「エステル様はお優しすぎなのですわ!」

ローニャも先程のやり取りには耐えがたいと感じていたが、エステルの起点により安堵した。

その一方でエステルの優しさに一切気づく所が責める態度を取る二人が許しがたかった。


「今日の夜会は元老院の皆様も来ていらっしゃることを理解しているのかしら?」

「知っていても、関係ないのではありませんか?頭の中が花畑ですもの…油も取れない花が咲いているのでは?」

理性的で可憐な令嬢と謳われるもう一人の社交界の華はかなり毒舌で容赦がなかった。
虫も殺さないような顔をしてさらりと怖いことを言い放つローニャにユランは冷や汗をかく始末だった。


(王都の女の子ってのは皆こうなのか?)

見た目は可愛いのに性格が恐ろしい。
エステルの方がまだ大人しい方だが、普通の少女とは程遠いがまだましに思えるユランだった。



「お姉様!どうしてリズベット様を庇うのです」

「君はヘレンの姉だろう!守るべきはヘレンだ。見損なったぞ…権力を振りかざすような令嬢を守るなんて!それでも騎士の端くれか」

「いかにまぐれで騎士になったと言えど、騎士の…いいえ、人としてどうなんです」


罵倒を繰り返す二人に反論する気力さえない。
二人の言っていることは矛盾しているし、子供のような言い分だった。


深いため息をつきながら黙って聞いているエステルの態度がさらに気に入らず苛立つカルロはさらに暴言を吐いた。

それが自分の首を絞めることになるとも知らずにいたのだった。


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