ある公爵令嬢の生涯

ユウ

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第四部帰省とお家事情

23.頑丈な男

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演奏が終わり大きな拍手を送られる。
エステルはクロードと一緒に席に戻ろうとした時だった。


「エステル・アルスター!!」


(まだいたの)


エステルの前に立ちはだかるヒューバート。

「ハッ、小娘にしてはまぁまぁの腕前だったな!俺には劣るがな!」

「行きましょう」

「おい、いいのか」

何故このサロンにいるのだろうか。
そして何故自分の前に立ちはだかるのか意味が解らない。


「おい待て!!」

(無視よ、無視)

ここで相手にしたら面倒だと思い無視をする。


「落ちぶれ貴族」

「‥‥」

「捨てられた令嬢」

「‥‥」

「チビ」


何も言わないエステルに対して悪口を言い続けるヒューバートだったがエステルは態々挑発に乗るほど子供ではない。


(子供か!)

本当はエステルの方がずっと年下なのだが。
精神年齢が幼過ぎるヒューバートはやり方が低次元だった。

「いい加減に…」

無視され続けているので苛立ったヒューバートは声を上げようとした時だった。


「へ?」

顔に大きな手が押さえつけられ地面に叩きつけられる。


「ぶほぉ!」

「サロンではお静かにお願いします」

ギリギリと音がする。
ヒューバートの顔が地面にめり込んでいた。



「クニッツ」

「お嬢様、今すぐこの男を棄ててまいりますので」

「ぶほぉ!」

地面にめり込みながら両手を動かし抵抗する。


「さきに手を切り落としましょうか…しかしサロンで流血沙汰は問題ですね」


無表情のままさらりと恐ろしいことを言うクニッツ。


「おいおい、やりすぎだろ」

さっきまで貴族の令嬢と仲良くおしゃべりを楽しんでいたユランだったが、クニッツの登場によりそんな余裕は無くなった。


「いけませんわクニッツ様」

(セレナさん!)

この時だけはセレナが天使に見えたユラン。


(そうだよな…止めてくれるに決まってるよな)

安堵するユランだったが、世の中そんなに甘くない。


「物的証拠が残るではありませんか」


(((そっちか!!)))


ユランだけでなく状況を見ていた客人は一斉に心が一つになった。


「お嬢様に暴言を吐いたのですから、そう簡単に始末してはなりませんわ」

クスッと笑みを浮かべるセレナは天使どころか極悪非道の大魔王だった。


(天使と思った過去の俺を返せ!!)

一度でもセレナに心奪われた時間を今すぐ巻き戻してくれるなら全力で止めるだろう。


「ぐばば!!」

「中々しぶといですね」

「やはり、ぎゅっと」

「クニッツ様は鶏を絞めるが得意ですものね」


縄を取り出すセレナの目は本気だった。


「ちょっと貴方達!何をしているんですか!!」

「落ち着いてください…わぁぁ!さらにめり込んでます!」

メキメキと床に穴が大きくなっていくのに対してヒューバートは未だにジタバタ暴れている。


「ねぇ、何で馬鹿は生きているの」

「察するにヒューバートさんのスキルのお陰ではないでしょうか」

異様なほど体力があるヒューバート。
普通の人間ならまずは気絶してもおかしくないのにまだ生きているし、意識もはっきりしている。


「貴様等!俺を殺す気か!」

「いや、普通は死んでいるぞ」

「ええ、不死身なのかしら」

ヒューバートの言葉にクロードがうっこみをいれてエステルも賛同した。


静かに穏やかなサロンでの時間はもはや消えてなくなっていた。


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