ある公爵令嬢の生涯

ユウ

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第四部帰省とお家事情

20.男よりも凛々しく

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エレニーを庇う様に前に立ち手首を握る。

「お姉様…何故」

「今は夏休みですから帰省したのよ」


ヘレンの腕に痛みが走る。

「離して…痛いですわ」

「貴方はこれ以上の痛みを彼女に与えたのですよ」

「は?」

手首を離し、冷たい表情を向ける。

「言葉で人を傷つけ、そして暴力を振るおうとした。力ある者はその力を私利私欲に使ってはならないというのに」

「エステル様」

「申し訳ありませんエレニー様は。度重なる無礼を…許されることはではございません」

膝を折りエレニーに謝る。
その振る舞いはどこからどう見ても騎士にしか見えない。



「「きゃあぁぁぁ!!」」


微かに聞こえた悲鳴にユランは呆れる。


「おい、今聞こえたな」

「ええ、きゃーって聞こえたわ」

ミシェルもユランに同意する。


「エステル、しばらく見ない間に男らしくなったな」

「ええ、男装の麗人ですね」

クロードはエステルの立ち振る舞いに驚くもエドワードは頬を染めている。


「僕、危ない扉が開きそうです」

「おい!」

弟が危険な扉を開こうとするのを必死で阻止するも、既に扉が開かれている女性は多い。


「なんて凛々しいの!」

「それにあの潔さ…素敵」

「美しいですわ」


完全にヘレンは悪者扱いだった。

か弱い令嬢を苛め、泣かせたあげく手を出そうとしていたのを間に入り守ったという絵ができている。


「私は悪くありませんわ」

キッと睨みつけるも、エステルは怯むことはない。
むしろ哀れな目を向けているのでさらにヘレンを苛立たせるだけだった。

「お姉様、何故エレニー様を庇いますの!私はこの方に…」

「彼女から何かをすることはありえません」

「見てもないのにどうして言えますの」

その場に居合わせていなかったエステルが断言できるなんておかしいと思った。

「エレニー様、とんだ悪女ですわね。手紙で私の悪口を書いたんですのね?」

「そんなことしてませ…」

「お姉様もご自分と似ているからと言って庇うなんて愚かですわ」

全く人の話を聞こうとしないヘレンに疲れた表情をする。

(本当に人の話を聞かないわね)

これまでの環境がそうさせたと言えばそれまでだが、前世でもヘレンの思い込みどれだけ被害を被ったか解らない。


ヘレンが邸でこければエステルの所為にされ。
何か問題が起きれば姉として妹を見ていなかったことを散々咎められたことがあった。


今にして思えばなんて理不尽なのだろうかと思うが、そこまで哀しくなかった。

「何故そう他人を責めるのです」

「私は責めて…」

「責めているでしょう。エレニー様を、そして私を」


何かあれば人の所為にするヘレンを誰も叱ろうとしなかった。
両親はヘレンを溺愛するあまり厳しくしかる行為をしなかった結果がこれだ。


「相手を思いやる心、それが貴方にはありません。貴族の令嬢として…アルスター家の家名を汚すことだけはしないで」

「私は伯爵令嬢として恥じる行為は知っていませんわ。妖精姫の二つ名を貰って…」

これまで大人しかったエステルに咎められることは一度もなかったので動揺したが、嫉妬心故に酷いことを言っているのだと思い込み。


「お姉様、私に嫉妬するあまりそのようなことをおっしゃってますのね」

「はぁ?アンタ馬鹿じゃないの」

「なんですの…ミシェル様」


耐え切れずミシェルが口を挟んだ。
ヘレンに至っては苦手な人物がいたので顔を顰めた。


「何故ミシェル様が」

「あら?私も夏休みよ…そういえばアンタ。特別科から一般科に降下されたんですってね?」

「何故!」

どうして知っているのかと問いただすも笑みを浮かべる。

「あら?社交の場では噂になっているわよ。特別科から降下されたなんて皆知ってるわ」


「エステル様は学年首席なのに…妹さんは馬鹿なんですね…あ、すいません」

悪気なくはっきりと言ってしまったアリスに噴き出すユラン。


「お前、いくら本当の事でも正直に言い過ぎだろ」

「そうですよ、本当のことだからってオブラートに」

「頭悪そうだっちゃ」

「サブローさんに同感ですね。神聖なる場所で暴言を吐くぐらいですから」

笑いをこらえながらフォローを入れるユランに、正直に頭が悪そうだと言うサブローに賛同するジークフリート。

ここまでの辱めを受けたことあないヘレンは耐え切れなかった。


「伯爵令嬢の私を‥!」

「エステルは公爵令嬢だけど?大体アンタに嫉妬とする理由はないわ」

ヒステリックに叫ぶヘレンを鼻で笑うミシェルにエドワードはフォローを入れるがさらに追い打ちをかけていた。

「ミシェル、言い過ぎですよ。確かにエステルは容姿端麗、文武両道ですが」

「エド、フォローになってないぜ」


クロードはフォローする気は毛頭ないが、ここまで頭がお花畑だと思わなかった。


「クロード殿下、皆さんが私を…」

涙目で訴えてクロードに助けを求める。

「悪いが俺もこいつ等と同意見だ。見苦しいぜ」

「えっ…」

「伯爵令嬢がマナーもなってないなんて笑い話にもならないな」

冷たい視線を向けながらクロードは傍にいる護衛騎士に声をかける。

「何ですの!」

護衛騎士囲まれるヘレンはビクつく。


「ヘレン嬢は宗教に関する場所への立ち入りを禁じられている。その上問題をおこした以上は貴族院にも伯爵夫妻にも報告が行くだろう」

「何をしますの!」

無理矢理連行されるヘレンはそのまま連れて行かれてしまう。


「お姉様!どうしてですの!!」

何故助けてくれないのかと訴えるもすぐに出入り口に連れて行かれつまみ出されてしまった。




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