ある公爵令嬢の生涯

ユウ

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第四部帰省とお家事情

6.道中の会話

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王都から馬車で邸に向かう最中ユランは近衛騎士に睨まれていた。


馬車は二台で、ユランの乗っている馬車にヴィオラとエステルは乗っていなかった。

「フンっ、自業自得ね」

「あんまりだ…」

確かに節操がないユランも悪いが、勘違いするのも仕方ない。
セレナの外見を見ればまだ若いと思うだろうし、ヴィオラも既婚者と言えど美しいのでコロッと行くのは仕方ない。


「よって俺は悪くない!」

「十分悪いと思います」

「アリスが酷い!」

「馬車の中で叫んでんじゃないわよ!鼓膜潰すわよ!」

通常の馬車よりも広いが密室で騒がれれば煩いのでミシェルが脅しをかける。

「俺の扱いが酷い」

「無様ですね」

何時ものように眼鏡をかけ直しながら冷たく言い放つジークフリートも弁護する気はない。


馬車で三十分ほど移動するも景色が変わらない。

「なぁ、さっきから同じ建物の周りじゃね?」

「長か塀と」

「どこまで続くんでしょう…あ、門に入りましたね」

ユラン達は気づいていなかった。
既にアルスター侯爵家の敷地内に入っていることに。

「アンタ達、よく見て見なさい」

「え?」

「この敷地全部、アルスター侯爵家よ」

「「「はい?」」」

余りにも広すぎる。
何処までも広がる緑豊かな自然に、牧場には馬が芝生を食べている。


「じゃああの大きなお邸が…」

「あそこは使用人専用よ」

「「ええ!」」

少し進んだ場所に大きな邸が見えるが、そこは使用人専用の寮だと言われる。

「その先よ」

ビシッと指を指す方向を見ると比べ物にならない程の豪邸が目に入る。


「宮殿かよ!」

「広いです!お城です」

「エルテルさんは本当のお姫様だっちゃ!」

「だから騒ぐんじゃないわよ」

田舎者はこれだからとブツブツ文句を言う中、一人ついていけない人物がいる。


「何?どうしたのよ」

ポカーンと口を開けたまま動かないジークフリートはあまりの大きさに驚いて放心していた。



同じく別の馬車では。


「知りませんでした…こんなに広いなんて」

エステルと同じ馬車に乗っているルークは遠い目をしている。

「インディーズ家のお邸と違って少し古いかも知れないがね」

「いえ…そんな」

煌びやかな建物よりも歴史を感じさせる作りを好むロバートは王都の貴族達のように豪華絢爛な作りにはしなかったが、建物自体は頑丈にしている。

他にも工夫をしている。

「私の実家の邸が古くてね…実はこの邸は私の叔父から譲っていただいたのを改築したんだ」

「そうなんですか?」

「だから思い出深いんだよ」

新しいものを好むラウルと違いロバートは物を大切にするので買い替えることはあまりしない。

エステルを出迎えた豪華客船も少しだけ手を加えただけで元の船の原型を残していた。

「そろそろ着きますね」

「はっ…はい」

緊張するルークは本当にいいのかと不安になる。

「ルークさん、娘は少々世間知らずで迷惑をかけていないかい?」

「えっ…」

エステルに聞こえないようにこっそり話す。

「あの子は少々世間から隔離されえて幼少期を過ごしていてね…普通の令嬢とは違うんだ」

「エステルさんが?」

確かに普通の貴族令嬢とは異なるかもしれないがルークはエステルに憧れていた。


「でも、エステルさんはとてもかぅこ良くて、努力家で…優しくて素敵なんです」

「そうか…良かった」

ルークは社交的とは言い難い性格をしており自分に自信がなかったが、エステルと出会って初めて友人を得ることができた。

言いたいことも言えなかった自分が嫌いで、今でも好きかと言われれば肯定できない。

(でも!)

前よりも少しだけ好きになっている。
大嫌いだった過去の自分を好きになれるよ成って来たのはエステルやユラン達のお陰だった。


「僕はエステルさんに出会えて本当に良かったと…すいません。偉そうに」

相手は自分より格上の相手なのに何を偉そうなことを熱弁しているのだろうかと悔やむがロバートは笑みを浮かべる。

「できたら私をロバートおじ様と呼んでくれないか?君は娘の大事な友人なのだから」

(大事な友人…)

目を輝かせる。

ルークはエステルにとって大事な友人だとロバートに紹介してくれているのだと知り涙を流す。


「ルーク?何を泣いてるの?」

「ははっ、本当に可愛いね」

「お父様」

何処に行っても弄られるルークだった。

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