ある公爵令嬢の生涯

ユウ

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第四部帰省とお家事情

3.気遣い

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一日の船の旅はそれはもう規格外過ぎて驚かされてばかりだった。

ジョナサンとジェニーは細心の心配りをして旅を楽しめるようにした。


昼食はデッキで食事をすることになった。

「料理長のジェシカと申します」

「すげぇ美人!!」

ユランは再び出会いに巡り合った。
早速口説こうと気合をいれるようとするが‥‥


「ユラン、ジェシカはジョナサンの奥さんよ」

「え?」

「じゃあ、ジェニーは?」

「私の娘にございます」


ジョナサンの年齢はどうみても高齢だった。

「嘘だ…爺さんの奥さんがこんな若くて美女とか!」

「お褒めのことをいただき光栄です」

「そんなぁぁぁ!!」

セレナに続いて理想の女性は超年上。
見た目は20代前半にしか見えないセレナにジェシカも20代後半ぐらいにしか見えない。

「でも、とてもそうは見えませんね」

アリスも素直に意見を述べるとジェシカはただ微笑みながら料理を運ぶ。


「好きな仕事をさせていただいておりますから、心の栄養が足りているのかもしれませんね」

「ええ」

同意を求めるようにセレナを見つめるジェシカに笑みを浮かべる。


「さぁ、どうぞ」


「わぁー、私の故郷でよく食べるスープ」

「アリスの故郷はジャガイモが美味いとね?」

「はい!」

ここで故郷のスープが食べられると思わず笑顔を浮かべる。


「美味しい…」

「それはようございました」

「あれ?このチキンは僕の故郷でよく食べる物です」

「野菜ジュースは俺故郷のとね!!」


出された料理はすべて慣れ親しんだ料理が多かった。


「エステル、お前の仕業かよ」

「私が好む食事をお願いしただけよ?たまたまよ」

(良く言うぜ…)

全て事前にチェックしているのはバレバレだった。

特に三人はこういった旅に慣れていないのでできるだけ緊張しないように楽しめるように配慮したのだが、本人に言う気は無い。


だが…


(もしかしてエステルさん…)

(気を使ってくれたとね?)


(僕が好きなのを知っていて…)


彼等も馬鹿ではなかった。
意図的に用意されたわけではないと本人は言っているが田舎料理なんて王都の貴族が好んで食べることは少ないのだ。


「このスープすごく美味しいわ」

「このスープは私の故郷でも人気なんです」

「王都でも食べればいいのだわ」

王都の貴族が好むのとは異なるが素朴で美味しいと感じた。
元より幼少期から冷たいスープを飲んでいたが、このスープは冷たくても温かみのある味がした。

「薄味の方が体にいいんです」

「まぁ、そうなの?」

「油の取り過ぎだと体にも負担がかかります」

アリスの生まれた村は質素で食べていくだけでも精いっぱいだった。
食事はパンとジャガイモのスープが殆どで味も薄味だったがアリスは気に入っていた。

学園の食事は豪華だが、疲れた時にはこのスープが恋しくなるのだ。

「ハントさんはとても勉強熱心なのね」

「お嬢様、間違っても台所に立とうなどおっしゃらないでくださいね?」

「うっ…」

キリっとした表情で言うセレナに目を泳がせる。


「何かあるのか?」

「べっ…別に」

目を逸らすエステルを不審がる。


「お嬢様はお料理が全くできませんので」

「セレナ!」

「お裁縫等は問題ございませんのに何故かお料理だけは…」

痛い所を突いてくるが、実際裁縫が得意なのには理由がある。

(投獄中嫌という程させられたもの…)

前世で牢屋にぶち込まれた際に縫物は嫌という程させられたので自然と身に着いた。
ただし料理をしたことはなかったので、一度料理をする機会があったのだ。


「そういえばアンタクッキーを焼いたら泥団子ができたわね。しかも食べたら即死」

「死んでません」

「食べた人は死にかけたのよね?医師はこれほどの毒は見たことがないと言っていたわね」

お菓子作りをした時同じ現場にいたミシェルは目撃した。
お菓子を食べた使用人はその場で倒れて運ばれ死にかけたことを。


「エステルさんにも苦手なものってあったんですね」

「アリス様、お嬢様は苦手なことが沢山御座います」

「え?そうなのか?何々!!」

面白がって聞こうとするユランにイラっとしたエステルは思いっきり足を踏んづける。

「いっ!」

「あら?どうしたんですの?」

「アホとね」

思いっきり踏まれて痛みを耐えるユランは涙目だった。

「レデイ―に恥をかかせるなんて最低よ」

「ユランさん、酷いです」

「もう少し場所を弁えたまえ」

そろいもそろってユランを批難する。
ここに味方はだれ一人おらず悲しくなるが傍でお茶を淹れるセレナは嬉しそうだった。


(お嬢様が笑っていらっしゃる…)

心の中では感極まっていた。
王都にいたときは作り笑顔を浮かべていたエステルが年相応の笑顔を浮かべているのを見て、メトロ学園に行ったのは間違いではないと確信していた。



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