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第三部騎士科の道
25.転落へのカウント
しおりを挟む展示会の騒動でヘレンは今後一切中央神殿並びに、教会の出入りを禁じられることになった。
アルカディア王国は音楽の女神の加護により平和が守られているが、何も女神の力だけで国が反映しているわけではない。
女神から直接力を与えられた聖女に騎士等がの対力あってのことだ。
信仰心とは強制するものではないが、聖女への侮辱は女神への否定にも繋がるのだ。
公衆の面前で聖女を侮辱し、聖職者を否定したあげく教皇までも馬鹿にしたヘレンは特別科から一般科に降格となってしまった。
「どういうことですの!」
「どうもこうもありません。この所貴方の成績は下がっておりますし…貴方は特別科の授業についていけていないようですので」
冷たく言い放つのは特別科の担任教師だった。
「学園の模範となる特別科の評価を落としたあげく学園に泥を塗るとは…」
「先生、いくら何でもその言葉はあんまりですわ。私は伯爵令嬢ですわよ!」
担任は貴族であるが爵位は子爵なのでそれほど高くなく、ヘレナからすれば格下の人間に咎められたも同じだった。
「ええ存じてます。貴方自身はなんの地位ありませんが」
「なっ…!!」
「まったく、貴方はどうして問題ばかり起こすのでしょう。姉君は名門校で生徒代表で大変優秀だと聞いておりますのに…元妹と言えど親族がこれでは」
深いため息をつきながら心の底から嘆く。
(なんですって!!)
ヘレンはこれまでお姫様のように大切にされてきた。
対して姉はヘレンのオマケ程度にしか扱われておらず、使用人も同様だった。
なのに姉が王都を出てから周りから冷たい目で見られ対応が変わってしまった。
一番許せないのは婚約騒動以来から視線が変わってしまったことだ。
社交界で見る目が変わったことまでは気づかなかったが、周りの対応が少しだけ変化していることは薄々と気づき始めた。
貴族院に入ってからはさらに取り巻く環境が変わりだしたのはエステルの評判だった。
少し前までは出来損ないの姉と優秀な妹という立ち位置だったのに、今では全く逆だった。
社交界では妖精姫の名を貰っており有頂天になっていたが、そんなものは風前の灯と同じだった。
外見だけが美しくとも所作や話し方が美しくなければならない。
エステルがいた頃は比較対象がいたのでヘレンのいい部分だけが目立っていた。
しかしエステルが周りに評価され始めてからヘレンの欠点が目立つようになってきた。
まずはサロンの出入りを禁じられてしまったことから教養がないと判断され、貴族院で教養が問われる授業では厳しくて指摘を受けた。
元より努力が嫌いなヘレンは地道は作業は出来なかった。
貴族の令嬢としてダンスや礼儀作法は出来ても相手を気遣うなんてことはできるはずもなく、失言の所為で学校では孤立し、才ある令嬢とは折り合いが悪かった。
地方出身者のことも見下いしていたので反感を買っていたが、本人にその自覚はない。
自分は悪くない、そう信じて疑わなかったのだが…
「姉君は人柄も素晴らしく、努力家だと言うのに」
「私は姉とは…」
「まぁ、勉学に熱心ではない貴方に話しても意味はありませんわね?」
蔑むような視線を向けられカッとなるがチャイムが鳴り言い返すこともできなくなる。
「授業が始まるから戻りなさい。今日からは一般科の校舎ですがくれぐれも他の生徒に迷惑をかけないように」
(なんて人なの!)
自分より格下の身分でありながら無礼だと思いながらも教室に向かおうとしたのだが…
「そこの貴方」
「はい?」
「一般科の教室はどこですの?案内なさい」
「は?」
教室が解らないヘレンは廊下にいる生徒を捕まえ案内させようとした。
「何この人?」
「放っておきましょう?」
「ちょっ…!!」
声をかけられた生徒はいきなり上から目線で言われたのだから気分を悪くするのは当然だが、ヘレンは気づかなかった。
伯爵令嬢で妖精姫である自分に声をかけてもらったのだから喜んで世話をすると傲慢な考えを持っていたのだ。
(なんて無礼な!)
邸では使用人は当たり前のように言うことを聞いてくれた。
社交界でもヘレンの信者はもちろん同じ対応だったが貴族院も同じだと思い込んでいたのだ。
傲慢な態度で人が従うわけもなく、結局自力で一般科の教室を探したが授業は終わった後で教師に叱られることになった。
しかも、遅れたのは案内してくれなかった生徒の所為で自分は悪くないと言う始末だった。
我儘で傲慢な態度にクラスメイトは冷たい視線を送り関わろうとしなかった。
取り巻きは特別科に在籍しているので態々様子を見に来ることもない。
(何故誰も傍に来ないの!)
休み時間になっても誰も話しかけて来る生徒はおらず取り巻きだった令嬢も様子を見に来ることもなかった。
これまで当たり前だったモノが少しずつ亡くなっていくことにヘレンは気づくこともなかった。
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