ある公爵令嬢の生涯

ユウ

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第三部騎士科の道

15.悪あがき

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試合の行方は誰もが予想しない方向に進んでいた。



「嘘だろ…」

「圧勝じゃねぇか!」

野次を飛ばしていた生徒は唖然とする。
既に10人を余裕で叩き潰しているエステルは汗一つ、息一つ乱れていなかった。


「馬鹿な…ありえん!」

ノーアンは自分の目を疑った。
14歳にも満たない少女が相手は成人した男でそれなりに腕の立つというのだ。


(こうなったら!)

このままでは負けてしまう。
大勢の前で宣言したので示しがつかないと思いノーアンは拘束魔法を使うべく呪文を唱える。


この魔法は術をかける相手を束縛するだけでなく魔力を弱めることができる。

「ぐっ!!」

見えない糸で相手の自由を奪う魔法を使われればエステルの動きが鈍くなる。


「もらった!!」

「あっ!」


剣が頬を掠める。
さっきまで圧倒的に有利だったのに形勢逆転に追い込まれてしまう。


(これは…拘束魔法)

体に力が入らず魔力を奪われている感覚に襲われる。

全く動けないわけではないが、これでは一撃を決めるのは難しい。


(あの男!)

すぐに術者を見つけたが、その相手はノーアンだと直ぐに解った。


(どこまで腐った男なの!)


勝つためならば手段を選ばない男はもはや男としても聖職者としても論外だったが、相手が急所を狙っているので長引けばどうなるか解らない。




一方その頃、ミシェルは様子がおかしいと感じていた。


「変だわ」

エステルの動きが一瞬にぶったことにいち早く気づく。


「ピー!!」

「ん?やだ、ナポレオンじゃない」


観客席の足元にいるナポレオンに気づき驚く。


「いつの間に…」

「ピー!!」

「興奮してどうしたの?」

何時もは大人しいナポレオンが興奮しているのでどうしたのかと思った矢先。


ノーアンが呪文を唱えているのに気づく。


「まさか!」

「ピー!!」

ナポレオンはノーアンに気づいていいるのか威嚇する。


「あの男!」

ここまで見下げ果てた男だとは思わなかった。


「なんとかして呪文を止めさせないと…けどここからじゃ」

気づかれないように使い魔を差し向ける必要があるが、どうやって送り込むかと考えていたら…


「ん?何かしら」


竜巻が近づいて来る。


「あれは…」


どんどんこちらに向かってくる。


「すごいスピードで落ちて来る気が…」


竜巻は速度が弱まることなく下に落ちた。



「ん?なんだ?」

「ノーアン様!!」


「わぁぁぁ!」


あろうことにもノーアンのいる席に落ちたのだった。



その所為で呪文は途切れてしまった。



(体が!)

操っていた糸は緩み、その隙を逃さずエステルは剣を構えた。



「はぁぁぁ!!」


「なっ!」

相手の剣を弾き勝負がついた。


「勝負ありですわ」

「…ける…な」


勝敗が決まったのでこれ以上争うつもりはないので背を向けようとした。



「お馬鹿!何背を向けているの!!」


「はい?」


「後ろ!後よ!!」


ミシェルは相手が殺気を消していないことに気づいていた。
むしろ殺気は悪化していた。



「ふざけるなぁぁぁぁ!!」


怒りと共に魔力を暴走させる。


「女如きが!女は男に使われてればいいんだ!」


炎の獣が怒りのままにエステルに襲い掛かる。



「反則です!やめなさい!」

「俺に指図をするな!」

二年のの騎士科が止めに入ろうとしたが、男は怒りで我を失い攻撃する。

「ウッド!!」


「来るなセナ!」

仲間を守るべくセナが前に立つ寸前にエステルは魔法を使う。



「風よ戒めの鎖となり炎を捕らえよ!!」


炎の獣は風の精霊によって拘束される。


「水よ迸れ!」


地面から水しぶきが上がり炎を消化する。


「ばっ…馬鹿な」

ガクンと膝をつく。


「往生際が悪いですわよ?潔く負けを認めた方が男らしいですわ」

氷のように冷たい視線を送るエステルに既に戦意などなかった。


「すげぇ…」

「風と水の精霊と契約しているんなんて!」


魔法科の生徒は瞬時に精霊を召喚したエステルに感銘を受ける。

他の学科の生徒に至っては、先輩を守るべく前に立ち身を挺して庇った勇気を本当の騎士のようだと褒めちぎる。


「なんて立派なんだ」

「それに比べて戦う意思のない相手に攻撃するなんて」

官僚科や錬金術科は蔑んだ視線を向ける。
もちろんその視線の先にはエステルにいちゃもんをつけたノーアンの教え子だった。


「どう考えても不正はしてないわよね」

「そうよね…なのに」



公の場で実力を示し、あくまで正々堂々と戦ったエステルは無暗に相手をいたぶるような真似をしなかったのに対して対戦相手は行動は許されるものではなかった。



「これにて判定を行います」


「大司教長様!」

「ノーアン、誠に残念です」


既にノーアンの処分は決まっていた。

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