ある公爵令嬢の生涯

ユウ

文字の大きさ
上 下
65 / 408
第二部メトロ学園へ入学

29.二人と一匹

しおりを挟む

この世界には不思議な生き物が生息している。


精霊、妖精という人とは異なる存在。
彼等は人間とは異なり不思議な力を使うことができる。

特に精霊は妖精をよりも高位な存在でこの世界の秩序を守る四大精霊の力で機能している。


精霊や妖精以外にも獣人族や竜族と呼ばれる種族に、魔物モンスターも存在している。

通常魔物は空、海、地上などと様々な所に生息している。
魔導士等は彼等を使役して使い魔にしていることもあるのだ。


‥‥‥なので。


「うーん」

本を読みながら考える。


「ピー!」

机の上でウネウネと足を動かせエステルに笑うナポレオンは野生なのだが、かなり人に慣れている。

「普通は警戒心を持っているのだけど」

「ですよね」

アリスも観察しながら不思議だと思った。

「キャタピラーは警戒心はあっても根は優しいからかしら」

「でも、授業で他のキャタピラーに噛まれている人がいました」

「じゃあ、この子は大人しいのね」

ひょいっと抱き上げ頭を撫でる。


「ピー!」

「わっ!」

口から再び糸を吐く。


「お部屋が…」

「糸だらけになるわね」

何をするにも糸を吐くナポレオンに苦笑する。

「ナポレオン、無暗に糸を吐いちゃだめよ」

「ピ?」

「糸だらけになってしまうわ」

後で掃除をしなくてはならなくなってしまう。

「エステル様は平気なんですか?」

「何がです?」

「えっと…素手で触るのを」

アリスの言いたいことがようやく解る。


「ああ、平気ね」

「すごいですね」

「私だって毒蛇を素手で掴んだりしないわ」

(そういう意味じゃないんですけど)


普通の蛇でも素手で掴むのは恐ろしいので無理なのだが、エステルの普通は世間一般では普通とは言わない。

「そのうちお家を作ってあげる」

「ピー!!」

「だから糸はダメだって言っているでしょ」

困った表情でナポレオンを抱きしめるエステル。


(まるで子供のように接すのね…)

魔物は忌むべき存在でもある。
魔導士や魔術師からすれば利用できる時だけ利用するようなモノで魔法科の生徒も消耗品のようにしか思っていない。


なのにエステルはまるで友人や家族のように接している。

魔物として扱ってないようにも見えるのだ。


「エステル様は契約をするんですか?」

「その気はありません」

「え!」

名前までつけているからてっきり使い魔にするのかと思っていた。

「はぐれたのかもしれないし…もしかしたら親が探しているかもしれないわ」

一度契約を果たせば解除することはできない。
ギルドの中でも魔物とバトルをして使役する時は契約をして使い魔にすることで魔物のマスターとなるのだ。


「一度契約してしまったら魔物は契約者を親とするわ」

魔物はとても純粋な生き物だった。
一度忠誠を誓えば死ぬまで契約した人間を慕い尽くす。

間違って契約したり興味本位で契約などするなんて論外だと思っていたのでエステルは契約だけは軽はずみにできなかった。


「でも、名前をつけているではありませんか」

「そうね、本当は名前もつけるのはどうかと思ったけど」

名前をつけるべきではないと解っているが…


「仲間とはぐれたのならやっぱりね?」

「エステル様…」


一人ぼっちの寂しさも苦しみも理解している。
だからこそナポレオンを追い出すような真似をしたくないしできなかった。


「少しの間だけ許してください」

「そんな、許すなんて…」

同室のアリスの了承無しに決めたことを謝罪するがアリスは頭をブンブンと横に振る。

「この子の親が見つかるまでお願いします」

「はい…」

膝に座るナポレオンは機嫌よさそうにしながらまた糸を吐き出す。



「とりあえずは…」

「はい、お掃除が必要かと」


既に部屋は糸だらけになり掃除が必要になり、二人は直ぐに掃除道具を用意して部屋に絡まる糸を掃除することにした。






掃除をすること一時間。



「糸が多すぎです」


「キリがないわね」


最初こそは地味に掃除をしていたが量が多すぎるのでエステルは掃除道具を置いた。


「どうなさるんですか?」

「少し離れていてください」

手でするのは時間がかかるので効率よくすることにした。


「疾風の風よ舞い込め!」

窓から風が舞い込み、糸を切り刻んむ。


「これは風の魔法!!」

「この程度で良いわね」


風はそのまま消えてしまった。


「エステルさん風の魔法を使えたんですか」

「ええ、私の属性は風と水ですから」


元々アルスター家の祖先は水の精霊と縁があるのでエステルも契約をしていた。

幼少期の頃から魔法についても学んでいたのでこの程度ならどうと言うこともないのだが、アリスからすれば驚きの連続だった。


「貴方は光属性と聞いています」

「はい…」

「貴方ならきっと光魔法を正しく使えるわ」

光魔法は他の魔法と異なり未知の力を秘めおり闇魔法を打ち消すことができるのだった。


「でも…」

「光魔法を持つ条件はすべて持っているわ」

闇と対局である光。
その条件は強い魔力を持つことでもなく良い血筋でもない。


「光魔法を持つ者の条件は優しさと強さ」

(強さ…)

アリスは自分に自信がなかった。
平民でありながら魔力を持ちクラスでは一人ぼっちで友達もいない。


(こんな私が…)


強さの欠片もない自分は相応しくないとさえ思っていた。


(むしろ私よりも…)

アリスはエステルの方が相応しいのではないか、そう思っていたことを本人は知らなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隣の芝は青く見える、というけれど

瀬織董李
恋愛
よくある婚約破棄物。 王立学園の卒業パーティーで、突然婚約破棄を宣言されたカルラ。 婚約者の腕にぶらさがっているのは異母妹のルーチェだった。 意気揚々と破棄を告げる婚約者だったが、彼は気付いていなかった。この騒ぎが仕組まれていたことに…… 途中から視点が変わります。 モノローグ多め。スカッと……できるかなぁ?(汗) 9/17 HOTランキング5位に入りました。目を疑いましたw ありがとうございます(ぺこり) 9/23完結です。ありがとうございました

ヒロインが迫ってくるのですが俺は悪役令嬢が好きなので迷惑です!

さらさ
恋愛
俺は妹が大好きだった小説の世界に転生したようだ。しかも、主人公の相手の王子とか・・・俺はそんな位置いらねー! 何故なら、俺は婚約破棄される悪役令嬢の子が本命だから! あ、でも、俺が婚約破棄するんじゃん! 俺は絶対にしないよ! だから、小説の中での主人公ちゃん、ごめんなさい。俺はあなたを好きになれません。 っていう王子様が主人公の甘々勘違い恋愛モノです。

可哀想な私が好き

猫枕
恋愛
 どうやら周囲は私に可哀想でいて欲しいようだ。  だから私は可哀想を極めることにした。  ※話の進行具合で今後R指定が入る可能性があります。

婚約破棄!? ならわかっているよね?

Giovenassi
恋愛
突然の理不尽な婚約破棄などゆるされるわけがないっ!

【完結】『それ』って愛なのかしら?

月白ヤトヒコ
恋愛
「質問なのですが、お二人の言う『それ』って愛なのかしら?」  わたくしは、目の前で肩を寄せ合って寄り添う二人へと質問をする。 「な、なにを……そ、そんなことあなたに言われる筋合いは無い!」 「きっと彼女は、あなたに愛されなかった理由を聞きたいんですよ。最後ですから、答えてあげましょうよ」 「そ、そうなのか?」 「もちろんです! わたし達は愛し合っているから、こうなったんです!」  と、わたくしの目の前で宣うお花畑バカップル。  わたくしと彼との『婚約の約束』は、一応は政略でした。  わたくしより一つ年下の彼とは政略ではあれども……互いに恋情は持てなくても、穏やかな家庭を築いて行ければいい。そんな風に思っていたことも……あったがなっ!? 「申し訳ないが、あなたとの婚約を破棄したい」 「頼むっ、俺は彼女のことを愛してしまったんだ!」 「これが政略だというのは判っている! けど、俺は彼女という存在を知って、彼女に愛され、あなたとの愛情の無い結婚生活を送ることなんてもう考えられないんだ!」 「それに、彼女のお腹には俺の子がいる。だから、婚約を破棄してほしいんだ。頼む!」 「ご、ごめんなさい! わたしが彼を愛してしまったから!」  なんて茶番を繰り広げる憐れなバカップルに、わたくしは少しばかり現実を見せてあげることにした。 ※バカップル共に、冷や水どころかブリザードな現実を突き付けて、正論でぶん殴るスタイル。 ※一部、若年女性の妊娠出産についてのセンシティブな内容が含まれます。

神の子扱いされている優しい義兄に気を遣ってたら、なんか執着されていました

下菊みこと
恋愛
突然通り魔に殺されたと思ったら望んでもないのに記憶を持ったまま転生してしまう主人公。転生したは良いが見目が怪しいと実親に捨てられて、代わりにその怪しい見た目から宗教の教徒を名乗る人たちに拾ってもらう。 そこには自分と同い年で、神の子と崇められる兄がいた。 自分ははっきりと神の子なんかじゃないと拒否したので助かったが、兄は大人たちの期待に応えようと頑張っている。 そんな兄に気を遣っていたら、いつのまにやらかなり溺愛、執着されていたお話。 小説家になろう様でも投稿しています。 勝手ながら、タイトルとあらすじなんか違うなと思ってちょっと変えました。

捨てられ令嬢の恋

白雪みなと
恋愛
「お前なんかいらない」と言われてしまった子爵令嬢のルーナ。途方に暮れていたところに、大嫌いな男爵家の嫡男であるグラスが声を掛けてきてーー。

[完結]病弱を言い訳に使う妹

みちこ
恋愛
病弱を言い訳にしてワガママ放題な妹にもう我慢出来ません 今日こそはざまぁしてみせます

処理中です...