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第一部目覚めた先は巻き戻った世界
29.兄の忠告
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ヘレンは多くの人に祝福され愛する人との婚約が決まり幸せだった。
戸惑いながらもカルロも同じだった。
初めて会った時からカルロはヘレンに惹かれていた。
エステルが嫌いというわけではない。
不満を持っているわけではないが、所詮は政略結婚で親愛の情こそあっても恋心を抱くことはなかった。
叶うはずのない恋心に身を焦がし耐え忍んでいた。
家同士の繋がりの為にどうしてもアルスターの援助は必要だったが、本当はずっと夢を見ていた。
ヘレンと夫婦になりたいと。
無理だと解っていても、その願いを捨てきれなかったのだが…その願いは叶った。
アルスター家の支援を受ければ家は安泰で、公爵家の一員となれば将来約束されたも同然だった。
すべてが上手く行くと思っていた。
‥…はずだった。
なのに胸が引っかかっている。
(なんだと言うんだ?)
これですべて上手く行くと思った。
「カルロ」
「兄上?」
フレッツ侯爵家長男のガイナス。
「エステル嬢は何処だ」
「クロード殿下がお連れになりましたので知りませんが」
「何?」
顔を顰めるガイナス。
ガイナスは前妻の子供で跡継ぎとして祖父に教育を受け、現在は近衛騎士として勤めている。
「ガイナス様、お祝いの言葉を言いに来てくださったんですね?」
「ああ、後は詫びにですよ」
「え?」
何を言っているのか解らないと言うヘレン。
「とんだ茶番劇だ」
「は?」
「エステル嬢にこれ以上ないほどの屈辱を与え、辱めてしまうなど…なんと恥知らずな」
ガイナスはヘレンを冷たい目で見る。
「何をおっしゃっているんですの?」
「解らないのですか? 貴方は姉の婚約者を奪い彼女を傷物にしたのです」
「兄上! なんてことを!」
カルロがヘレンを庇う様に前に出るがガイナスは汚い者を見るような目をしている。
「婚約者がいながら堂々と浮気をして、こんな場所で堂々と彼女を振り愛を語るとは。あまりにも酷い」
「浮気だなんて! 私達は真実の愛を…」
「姉から婚約者を奪ってですか? これで彼女は社交界の笑いものです。傷物令嬢として罵倒され辱められるでしょう」
二人は真実の愛を貫いたと思っているが、婚約者を裏切ったカルロと姉の婚約者を寝取ったヘレンに対する目は厳しいモノだった。
「婚約破棄をされた令嬢は通常まともな縁談話はこないだろう…年の離れた貴族が娶るか、修道女になるかだ」
全ての貴族がそうとは限らないがこの二つが多い。
幸いにもエステルは跡継ぎなので修道女に行くことは回避できたが、カルロがしてしまったことはそれほどにまで罪深いことだった。
本来なら公の場で慰謝料を請求され、裁判をされてもおかしくないのにエステルは咎めなかった。
妹思いの優しい姉とも思えばそれまでだが、それに甘んじるカルロもヘレンも神経がおかしいのでは?と疑ってしまう。
「せめてこんな公でなければ良かったものを…愚かな」
「そんなのあんまりです!」
「私は事実を言ったまでです。あげくこんな不義を働いた者が身内になるとは」
ガイナスの言葉が深く突き刺さる。
全てが正論であるが、カルロは納得できるはずもない。
「エステル嬢はお前を好いていたというのに。お前を妹に奪われながらも幸せを願うなど…哀れで仕方ない」
「俺達は政略結婚です」
「解らぬか‥本当に愚かな弟よ」
何を言っても無駄だと判断したガイナスは疲れた表情をする。
「ヘレン嬢、そのうち思い知るでしょう?」
「何がです?」
「姉を踏みにじった代償は何れ支払わなくてはならない」
姉の婚約者を奪い、幸せになるなんてできるはずがない。
誰かを落としいれば必ず自分も陥れられることを告げてガイナスは去って行った。
「ガイナス様はどうしてあんな酷いことを言うのかしら?」
「ああ…」
「きっと嫉妬よ…私達が羨ましいからあんな酷いことを言うなんて可哀想ね」
自分達は愛し愛され結ばれたのだ。
誰からも祝福されているのにあんなことを言うなんて性格が歪んでいるに違いないと言うヘレンだったが、二人は気づいていなかった。
口ではおめでとうと言っている貴族達が心から祝福していないことに。
そして二人の婚約は決して幸せなものではないことに。
愛を語るには幼過ぎた二人は社交界の恐ろしさを知らない。
戸惑いながらもカルロも同じだった。
初めて会った時からカルロはヘレンに惹かれていた。
エステルが嫌いというわけではない。
不満を持っているわけではないが、所詮は政略結婚で親愛の情こそあっても恋心を抱くことはなかった。
叶うはずのない恋心に身を焦がし耐え忍んでいた。
家同士の繋がりの為にどうしてもアルスターの援助は必要だったが、本当はずっと夢を見ていた。
ヘレンと夫婦になりたいと。
無理だと解っていても、その願いを捨てきれなかったのだが…その願いは叶った。
アルスター家の支援を受ければ家は安泰で、公爵家の一員となれば将来約束されたも同然だった。
すべてが上手く行くと思っていた。
‥…はずだった。
なのに胸が引っかかっている。
(なんだと言うんだ?)
これですべて上手く行くと思った。
「カルロ」
「兄上?」
フレッツ侯爵家長男のガイナス。
「エステル嬢は何処だ」
「クロード殿下がお連れになりましたので知りませんが」
「何?」
顔を顰めるガイナス。
ガイナスは前妻の子供で跡継ぎとして祖父に教育を受け、現在は近衛騎士として勤めている。
「ガイナス様、お祝いの言葉を言いに来てくださったんですね?」
「ああ、後は詫びにですよ」
「え?」
何を言っているのか解らないと言うヘレン。
「とんだ茶番劇だ」
「は?」
「エステル嬢にこれ以上ないほどの屈辱を与え、辱めてしまうなど…なんと恥知らずな」
ガイナスはヘレンを冷たい目で見る。
「何をおっしゃっているんですの?」
「解らないのですか? 貴方は姉の婚約者を奪い彼女を傷物にしたのです」
「兄上! なんてことを!」
カルロがヘレンを庇う様に前に出るがガイナスは汚い者を見るような目をしている。
「婚約者がいながら堂々と浮気をして、こんな場所で堂々と彼女を振り愛を語るとは。あまりにも酷い」
「浮気だなんて! 私達は真実の愛を…」
「姉から婚約者を奪ってですか? これで彼女は社交界の笑いものです。傷物令嬢として罵倒され辱められるでしょう」
二人は真実の愛を貫いたと思っているが、婚約者を裏切ったカルロと姉の婚約者を寝取ったヘレンに対する目は厳しいモノだった。
「婚約破棄をされた令嬢は通常まともな縁談話はこないだろう…年の離れた貴族が娶るか、修道女になるかだ」
全ての貴族がそうとは限らないがこの二つが多い。
幸いにもエステルは跡継ぎなので修道女に行くことは回避できたが、カルロがしてしまったことはそれほどにまで罪深いことだった。
本来なら公の場で慰謝料を請求され、裁判をされてもおかしくないのにエステルは咎めなかった。
妹思いの優しい姉とも思えばそれまでだが、それに甘んじるカルロもヘレンも神経がおかしいのでは?と疑ってしまう。
「せめてこんな公でなければ良かったものを…愚かな」
「そんなのあんまりです!」
「私は事実を言ったまでです。あげくこんな不義を働いた者が身内になるとは」
ガイナスの言葉が深く突き刺さる。
全てが正論であるが、カルロは納得できるはずもない。
「エステル嬢はお前を好いていたというのに。お前を妹に奪われながらも幸せを願うなど…哀れで仕方ない」
「俺達は政略結婚です」
「解らぬか‥本当に愚かな弟よ」
何を言っても無駄だと判断したガイナスは疲れた表情をする。
「ヘレン嬢、そのうち思い知るでしょう?」
「何がです?」
「姉を踏みにじった代償は何れ支払わなくてはならない」
姉の婚約者を奪い、幸せになるなんてできるはずがない。
誰かを落としいれば必ず自分も陥れられることを告げてガイナスは去って行った。
「ガイナス様はどうしてあんな酷いことを言うのかしら?」
「ああ…」
「きっと嫉妬よ…私達が羨ましいからあんな酷いことを言うなんて可哀想ね」
自分達は愛し愛され結ばれたのだ。
誰からも祝福されているのにあんなことを言うなんて性格が歪んでいるに違いないと言うヘレンだったが、二人は気づいていなかった。
口ではおめでとうと言っている貴族達が心から祝福していないことに。
そして二人の婚約は決して幸せなものではないことに。
愛を語るには幼過ぎた二人は社交界の恐ろしさを知らない。
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