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第一部目覚めた先は巻き戻った世界
18.初体験
しおりを挟むクロードをそれとなく払い除け、エステルはクニッツと手を繋ぎその場を離れる。
「ブッ!」
後ろから噴き出す声が聞こえる。
「フラれましたわね…くくっ!!」
「見事にフラれましたわ」
背後でお腹を抑えながら大笑いをするガブリエルとヴィオラは笑っていた。
ここは社交の場ではないので無礼講だ。
公の場では大きな声をあげることも好きに笑うことも見っともないと言われるが、敷地内なら問題ない。
「流石エステル。見事に殿下を…」
「真の淑女たるもの殿方に媚びを売ることなかれ!」
扇を取り出し天晴と言うガブリエルはご満悦気味だった。
「俺は一応、王子だぞ」
「ええ、存じておりますわ」
例え王子殿下であろうともガブリエルは王族であっても相応しくなければ認めない。
「女の身分が低い時代だからと言って卑下してはなりませんわ」
「同感ですわ。女性が爵位を持つのが傲慢だなんて嘆かわしい」
今でこそ爵位を得ている二人だが、当初は他の貴族から散々嫌味を言われ強欲と言われた。
爵位を持つのは男だけで女は男の言うことを聞いて従ってればいいという考えが当たり前となっているのだが、王妃は改革に意欲的で国王よりも10歳年上だこともあり女性の地位向上に賛成していた。
その代表となるのがモントワール侯爵夫人だった。
彼女は女性でありながらあらゆる改革を始め国を潤したと同時に決まり事を作った。
貴族の汚職事件を徹底的に取り締まりるようになった。
その所為で貴族の多くはモントワール侯爵夫人を憎み、妬み、罵倒して陰口を言っているのだが、本人は気丈夫だった。
「私はモントワール夫人のように強く、逞しく生きて欲しいのです」
「ですが欲を言えば、妻としての喜びを知って欲しいですわ」
「それは勿論ですわ」
二人は扇を広げホホホッと笑う。
「まぁ、エステルはこれまで傍で守ってくれたクニッツが最高の騎士であり完璧な王子様かもしれませんわね」
「クニッツは良い男ですから」
「俺が騎士以下と?」
さりげなく屈辱された気分だったので言い返す。
「いいえ、ただクニッツは良い男ですわ。損得関係なく孫を愛しみ、尽くしていますし」
「騎士道ですわね」
騎士道では、身分の高い女性に損得なく仕えるのが美徳とされている。
クニッツも同様にエステルを主として慕い誠心誠意尽くしているので株は上がるばかり。
「私考えましたのよ」
「何をだ?」
「相応しいなら身分にこだわる必要はないのではとね?だって性悪な男や浮気癖の酷い貴族よりずっといいではありませんか」
「そうですわね」
アルスター家の抱えている問題は跡継ぎだけで利益を追求する必要はない。
「クニッツを婿に向かえるのもいいですわ」
「正気か!」
「ええ」
ふふっと笑みを浮かべる表情は聖母ではなく魔王のようだ。
(ガブリエルならやりかねん!)
この笑い方は母親そっくりで震える。
「だが、カルロとの婚約はどうする気だ」
「あら?気になりますの?」
「別に…」
本当は気になる所だった。
貴族の婚約は当人同士の意志を尊重されることはほとんどないので難しい。
(目下の敵はこの魔王だ‥‥)
悪魔なんて可愛らしいもので済まされない。
「エステルが欲しいなら死ぬ気で努力なさいませ。あの子は実の両親と婚約者に裏切られ人間不信ですわ」
「特に王太子殿下以外の男は信用しないでしょうね」
「…なんでエドワードはいいんだ」
ここで疑問を抱くのはエドワードだけは違うと言われ驚く。
「理由は存じませんが、エステルにとってエドワード様は尊敬の対象でしたわ」
「誠実で聡明でお優しい方ですから」
(納得がいかん…)
エステルは妾腹の子だからと差別する人間ではないことは解っているが、何故エドワードに対して好意的なのか。
(尊敬の対象というのは何故だ?)
確かに王太子殿下という立場なら取り入るのは解るが、腑に落ちなかった。
「失礼する」
「はい、ごきげんよう」
「ごきげんよう殿下」
苛立ちながらガブリエルとヴィオラに別れを告げ、クロードはエステルを探した。
(何処だ?)
庭の方行き探し回る。
侯爵の邸は貴族とは言えとても広く庭園も馬車で回らなくてはならないほど広かった。
(なんでこんなに広いんだ…)
庭の中に入り、奥の方に向かうと声が聞こえた。
「えい!やぁ!」
「腕をもっと、強く締めて」
「はい!」
クニッツと一緒に剣術の特訓をしていた。
(何でこんな所で隠れてコソコソと…)
気配を消して盗み見するクロードはどうして剣術を学んでいるのかと思ったが…
(なるほど、そういうことか)
隠れて剣術を学ぶ理由を考えると簡単に答えがでる。
(ロバート殿は近衛騎士団長だからな)
跡継ぎであるエステルはアルスター家をただ継ぐだけではなくロバートの跡も継ぐ気でいるのだ。
(そうなると剣は必須だからな)
もう一つ考えられるのは騎士になればロバートの地位を守ることができるしもう一つの可能性がある見えた。
(そういうことか…)
クロードは答えを導き出した。
「おい!」
「へ…殿下」
音もなく現れたクロードに嫌な顔をする。
「お嬢様お下がりください」
「だから何で俺を睨むんだよ。何もしないぜ」
「信用できません」
随分と嫌われたものだが、カルロの一件で王族に対する疑いの目があるのは仕方ないことだった。
「お前、俺じゃなかったら打ち首か、銃殺だぜ」
「…‥‥」
睨みつけるエステルに苦笑する。
「そう睨むな」
「何用でございますか?」
ぎゅっとクニッツにしがみつく。
「俺が苛めている見たいだろうが」
「現在進行形でそうではありませんか」
クニッツをどうする気だと睨むエステルはしがみ付いたまま離れない。
「彼を裁くなら私が責任を負いますわ」
「お嬢様なりません!」
二人でかばい合いをする光景を見て思ったのは。
(なんてめんどくさいんだ!)
とにかく二人のやり取りがめんどくさかった。
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