ある公爵令嬢の生涯

ユウ

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第一部目覚めた先は巻き戻った世界

10セイレーン

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あれ以来クロードと顔を合わせづらいと感じていた。


(最悪だわ…)


エステルは自己嫌悪に陥ってしまったのだ。


前世では人前で弱音も吐かなかった。


(反則だわ)


コンプレックスのこの髪を綺麗だなんて言われてグラリと来たなんて認めたくない。

(私…こんな趣味があったの?)

本気で心配しながら思い悩むエステルだったが、その間も演奏は完璧だった。



「やだ!アンタ何なのよ!」

「はい?」

演奏が終わり席を立とうとするとやけに低い声が聞こえた。


「難曲を適当に弾いてんじゃないわよ!失礼ね」

女性かと思いきや男だった。

「すみません」

「謝ってんじゃないわよ!アンタプライドないわけ!本当にむかつくわね!」


何故ここまで怒られているのか解らない。

「それでアンタ、クロード様とどういう関係よ」

「はい?」

「とぼけんじゃないわよ!サロンで一緒に演奏してたじゃない!許せない」

エステルにさっきから絡んでくる少年(少女)


「クロード様は私の太陽…王子様。すべてなの」

ポッと頬を赤らめる。

「なのに最近、クロード様はアンタといるわ!!キィィィ!!」

ハンカチをかみ締めながら怒っていた。

「アンタみたいな冴えない女が私の王子様の周りをチョロチョロと!絶対許せない!」

どうやらエステルはライバル視をされているようだ。

「クロード殿下は男性ですが」

「そんなこと知っているわよ」

「はぁ…」

初めて見る人種だった。
けれど、どこかで見たことがあるような気がする。


(ん?)


見慣れたフルートを見て思い出す。


(この人セイレーンのミシェル!)



ようやく思い出した。
黄金のフルートに魚のエンブレムは海魔女と言われる一族の証だった。


ミシェル・サイレス。
一族の中でも最も魔力が強いと言われていた。


(演奏会では何度も目にしたことはあるけど…)


でも、言葉を交わしたことはほとんどない。

「ちょっと聞いてんの!」

「はい…不愉快な思いをさせて申し訳ありません」

「謝ってんじゃないわよ!アンタ私を馬鹿にしているわね!」

どうしたらいいのだろうか。
謝っても怒られるならば、クロードとの関係は誤解だと言えばいいのか。


「アンタに決闘を申し込むわ!クロード様をかけて」


ビシッと呼びを指すミシェルだったが。


「負けました」

「ちょっと!」

あっさり負けを認めた。


「何であっさり認めているのよ」

「私とミシェル様では勝負になりません。海魔女様と言えば祖先は人魚様ですわ。私では太刀打ちできません」

「フン!当然よ!オーッホッホッホッ!!」


高笑いをするミシェルは気を良くして扇を広げる。


「それから補足いたしますが殿下は珍獣が珍しいのでしょう」

「珍獣?」

「はい」


シャングリラ宮殿には数多の美姫がいるのに態々自分に声をかけるのは珍しいからだけではないか?


「良くお考えください。私のような醜い令嬢に好意を持つなどありえません」

「アンタ、本気で言っているの?」

「はい」

迷うことなくきっぱりと言い放つエステルに憐れみの表情を向ける。

「どうかなさいましたか?ミシェル様」

「なんでもないわよ」

どうして憐れみの表情で見るのか解らない。


「あら?ミシェル様」

「フォーカス公爵夫人!」

このサロンの主催者が現れ、ミシェルは背筋を伸ばした。


「まぁ珍しいですわね。お二人ともお知り合いでですの?」

「はい、先程」

「素晴らしいですわ」


このサロンでは身分問わずに交流してくれるのが何より嬉しかった。

「よろしければ次の演奏をお二人にお願いできますか?」

「私はかまいませんわ」

「私も…」

サロン主催者であるフォーカス公爵夫人に言われたので断れずにいた。


「足引っ張ったらぶっ殺すわよ」

「はっ…はい」


フルートをチラつかせるミシェル。
サイレス家はフルートで相手の聴覚を惑わすことができる。

失敗すれば聴覚を奪うと脅しているも同然だった。


(失敗したらあの世行きだわ)



気を引き締めて演奏に望むエステルはバイオリンを取り出す。


「は?アンタバイオリンだったわけ?」

「はい」

「はいじゃないわよ!じゃあピアノは!」


さっきまでピアノを弾いていたので得意な楽器はピアノだと思い込んでいた。

(嘘でしょ!あれだけ弾けてピアノじゃないわけ!)


言葉には絶対に出したくないが、ミシェルはエステルの演奏レベルを認めていた。

ピアノ演奏家として十分やっていける程のテクニックを持っているのに専門はバイオリンと言われれば驚くのも無理はない。


「あの…」

「いいわよ!じゃあフルートとバイオリンで行くわよ!曲は子猫のワルツよ!」

「解りました」


二人は楽器を構え演奏を始めた。



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