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8王都と行儀見習い
しおりを挟む王都に住まう貴族は別荘を辺境地にする事が多い。
何かと王都での暮らしはストレスが多く、空気の良い大自然にて休暇を楽しみ心の安定を得るそうだ。
「王都の暮らしはそんなに良いものではないのよ」
「でも煌びやかで素敵だと聞きます」
「三日で飽きるわ。それよりも人の顔色を窺ってばかりで疲れるのよ」
あの日以来すっかり常連さんになった侯爵夫人は我が家のパン工場にも出入りするようになった。
パン職人達も困った表情をしているのだけど、ごり押しだった。
「ああ、この香りだわ」
「ブリウォッシュが焼けましたね」
「大好きなの。この香り」
食べることが何よりも好きな侯爵夫人は食べ物は作りたて以外は口にしない。
ただ美味しい物を食べたいだけではなく、高位貴族は毒味をしてからではないと食事ができないと言われたので私が考え無しに言ってしまった。
だったら目の前で作って貰えばいいのにと。
その結果自身でも料理をするようになったのだ。
「焼き立てのパン、しかも自分で作ると余計に美味しいわ」
「フカフカです」
二人でパンを作ったり、キノコを採りに行ったり。
時には魚釣りをして、星を見ながら過ごす事もあった私達は家族のような付き合いをするようになった。
そして私が10歳を迎える頃に侯爵夫人に王都に来て欲しいと言われたのだ。
「行儀見習いですか」
「ええ、難しく考えないで欲しいのユリシア」
「ですが娘はこれまで領地から一度も出た事がありませんし」
私は狭い世界の中にいた。
だらこそ侯爵夫人は言ってくださったのだった。
「アリアは広い世界を見て欲しい。それだけよ」
「侯爵夫人…」
「確かにこの領地でも行儀見習いはできるでしょう。でもより環境の整った場所で淑女教育を受ける事は彼女の為になるわ」
お母様は涙ながらに喜んだ。
別にこの領地を悪く思っている訳じゃない。
でも私には広い世界を見て欲しいと思っていたのかもしれない。
お父様は体が弱く、領地も今でこそは軌道に乗っているけど何時どうなるか解らない。
だからこそ侯爵夫人の申し入れはありがたかったし。
行儀見習いという表向き理由で、私を見習い侍女に迎える事でお給金も支払って貰えることになり格別の待遇だったのだ。
そして私が行儀見習いにて王都来て半年後の事だった。
私に縁談の話が舞い込んで来た。
それが当時お茶会に参加していたエセルバート様だった。
歳も近い事から私達は直ぐに親しくなり、婚約となったのだけど相手は何代も続く名家だった。
環境が全く違う家柄で、侯爵夫人は難色を示されていた。
だけど先方様が是非との事で縁談は進んでいた。
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