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16.出会い

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私が初めて恋を知ったのは五歳の頃だった。
当時、私はお父様に手を引かれ王宮に来ていたけど退屈した私は抜けだした。


「ここ何所?」


キョロキョロとあたりを見渡しながらも何処か解らずに好き勝手歩き回っていた私は小さな抜け道を見つけて探検していた。


子供にとって王宮の庭園は広すぎた。

勝手に歩き回れば迷子になるのは当然で、私は緑のトンネル抜けた先の迷路に迷い込んでしまった。


「うっ…ふぇ!」

歩いても歩いても同じ道で出口も解らず、泣き出した。


「どうした!俺の庭に誰かいるのか!」

「ジーク様、それが…お嬢様が迷路に迷い込んだようで!」

「何だと?おい、お前!そこから動くんじゃないぞ」

乱暴な声を放った男の子は私に動くなと告げた。

「下手に動くな。いいな?」

「はい…」

本当に見つけてくれるのか、もしかしたら一生一人ぼっちのままじゃないかと不安になり泣いていた私だったが。


「見つけたぞ」

「うっ…ひっぐ」

「何だ?まだ泣いているのか?」


葉っぱを頭につけた男の子は私に手を差し出す。


「もう泣くな。これをやる」


「坊ちゃま!」


差し出されたのは一輪の薔薇だった。


「何だ?固い事を言うな」

「そうではなくてその薔薇は…」

「わぁ!綺麗な薔薇!」


後ろで庭師が真っ青になりながら今にも倒れそうだったが、この時私は初めて見た紫の薔薇に目を奪われた。


「綺麗な紫!」

「花は好きか?」

「うん!」


誰かに薔薇を貰うのは初めてで私は嬉しくなった。

「私、薔薇を貰うのは初めて」

「そうか、じゃあ俺が初めてだな」

この時私はお父様が心配して探しに来ている事も気づかずにはしゃぎ、彼と手を繋ぎ出口を出ることができた。


「ティア!」

「お父様!」


「心配していたんだぞ…どうしたんだ?」


「あのねお父様、薔薇を貰ったの。私の初めてをあげたの」

「はっ…初めて!」

バタン!


「えっ?お父様?」

「旦那様?旦那様ぁぁぁぁ!」


この時、お父様は私が迷子になって居なくなりかなり取り乱していた事もあり、私のとんでもない発言にショックを受け気絶した。



「ティア、紛らわしい事を言ってはダメだろう」

「何故?私の初めてよ?」

「何でもだ、それから薔薇を軽はずみに頂いてはいけない。特に男だ!」

「旦那様、お嬢様はまだ五歳でございます。ご理解されるのは難しいかと」


頭を抱え唸るお父様に対してリィナは冷たい視線を向けていたけど、私はお父様の心配を装にジークベルトとまた会える日を心待ちにしていた。


その二週間後、王宮のお茶会で私達は偶然会うことができ、交流を深めることになった。


その結果。


「ティア、お前はジークベルト殿下が好きか?」

「うん、大好き」

「そうか、国王陛下よりお前と殿下との婚約の申し込みが来た」


第一王子と侯爵令嬢ならば、身分的に釣り合っているので私達の縁談は反対する事はなかった。


大人達の思惑に私は知るはずもない。


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