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9.決意

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私は常に前を向いて歩いて来た。

だから私は、後ろを振り向かず堂々と舞踏会に出ないと。


「大丈夫、大丈夫よ」


鏡に向かって笑顔を浮かべながら私は決意する。

「誇り高きアルデンテ侯爵家の娘が下を向いてはダメよ」

パンパンと頬を叩き、悪意からも真正面から立ち向かわないと。

「大丈夫…大丈夫」


自分に言い聞かせながら私の手にある一輪の紫の薔薇。


「そうだわ、これをお守りに持って行きましょう」


そして普段は首元に隠していたペンダント。
私が幼い頃から大切にしている宝物でもあるこれを身に着けて行きましょう。


「お嬢様、お時間です」

「ええ…どうしたの?」

「いいえ、お嬢様が薔薇の花を身に着けるのは久しぶりですね。とっても良くお似合いです」


そう言えば何時からか、私は花を身に着けなくなった。


殿下が派手な格好を好まれなかったから。

薔薇は華やか過ぎるから目立つからと。
殿下よりも目立つのは良くないと言われた私は髪飾りはシンプルで目立たない物にしていたけど。


本当は――。


「リィナ、まだ時間はあるわよね?」

「はい」

「髪型を変えて欲しいの」


もう偽る必要はない。
殿下に合わせる必要もないのだから。


この舞踏会に参加した後に、私は決断をしていた。


「昔の髪型にしてくれる?」

「はい!」

髪を降ろすようになったのは何時からだっただろう。


人目を気にして、常に見られる生活を強いられたのは。


そして剣を捨てたのは?

本当は騎士になりたかった。
お父様の後を引き継ぎ、剣を手に取り国を、国民を守りたかった。


けれど王太子妃候補に選ばれてから私は多くの者を手放したわ。


夢も、自由も、ささやかな幸せも。

けれど私はもう、自由になるわ。


「リィナ、私はもういいかしら?」

「はい?」

「もう、無理をしなくてもいい?頑張らなくても…悪い子になってもいいかしら」


私は良い子でいる事に疲れてしまった。
本当なら殿下の命令に従いすべてを受け入れ感情を殺すのが良いのかもしれない。

だけど、私の人生は私の為に生きたい。


「殿下に新しい婚約者を紹介すると言われたわ。既に決定事項で婚約を決められ、相手はメイデン伯爵様だと」

「なっ!正気の沙汰ですか…何様です!」

手に持っているブラシを握りミシミシ音がしている。
きっとリィナは怒ると思ったけど、隠し通せる自信がなかった。

だから事前に伝えることにした。

「例の少女を我が家の養女にして私に教育を任せたいとおっしゃったの。そして一生お二人に仕えるようにと、メディス伯爵と結婚し、彼を侯爵家の婿にと」

「信じられません!酷いです…あんまりですわ!」

「そうよね?酷いわよね…友人としての情も無くなったわ」

恋心はなかったけど、殿下への親愛の情も消える程だったわ。


「私は殿下の恋を反対するつもりはないけど、応援もしないわ」

「当然です!お嬢様は陛下の奴隷じゃないんですよ!所有物じゃないんです…あの方はお嬢様に心があるのを忘れています」

自覚が無いからと言って何をしても許されるわけじゃない。
でも、あの口ぶりからして私の意思を勝手に決めつけ、メディス伯爵と婚姻を結ばさせられるだろう。


最悪の場合も考えられる。


「私はこの舞踏会が終わったら国を出るわ」

「お嬢様…」

「殿下は私がすべて受け入れて当然だと思っておられるでしょう…できるはずがないわ」

社交界で一生笑い者にされるのは明白だから。

ならば手が出せない方法が一つだけあるわ。


「この国にいて貴族のままだったら私は…メディス伯爵と結婚させられるわ断れば侯爵家がどんな目に会うか」

「お嬢様…」


だから私はこの国を出て修道院に行くわ!


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