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1.父の優しさ
しおりを挟む婚約解消を告げられてから、どうやって邸に帰ったか解らない。
足元がおぼつかない状況で私はお父様の元に向かった。
「アリスティア」
「この度は誠に申し訳ありません」
この婚姻は我が侯爵家にとっても大事な縁談だったのに、私は台無しにしてしまった。
「お前は何も悪くない、話は聞いている」
「はい…」
「私は殿下と愛を育めませんでした」
幼い頃から殿下のお心に寄り添って来たけど、何が悪かったのだろうか。
私達貴族は恋をして結婚をする事はまず無理だった。
例外もあるが、政略結婚が当然なのだから。
例え愛のない政略結婚でもティエゴ様は私に言ってくださったのに。
「互いに尊敬しあえる関係で、共に支えられる関係を築こうと務めてましたが…私では無理なようでした」
「殿下は何と言って、お前に婚約者解消を告げたんだ」
「真実の愛を見つけたと」
バキッ!
「真実の愛だと…幼少期にお前を一生大事に愛すると言っておきながら?ほぉ?」
お父様が握っている万年筆を握り潰した。
「随分と舐めな真似を…我が侯爵家を侮っているのか?」
「悪気はないかと。私が承諾するのが当たり前だと思っていらしたので」
「馬鹿な事を」
私を抱きしめる手が優しかった。
お父様は私を責めずに抱きしめてくれたけど、余計辛い。
お前が至らないと言ってくれた方が楽だわ。
あの場には使用人もいたし、今頃私は婚約解消をされた傷物令嬢として噂が流れているかもしれない。
「相手の女性は知っているか?」
「いいえ」
表向きは冷静を他所っていたけど、内心は動揺していた私は失念していた。
ちゃんと聞けばよかった。
「何所のお国の姫君でしょう」
「他国の姫ではない、貴族すらないのだ」
「え?」
他国の姫君でも貴族令嬢ですらないとは?
「平民の少女だ」
「そんな…」
私はショックというよりも失望感が襲った。
そしてこの後の事を考えると頭が痛くて、眩暈がする。
「ああ…」
「アリスティア!」
「お父様、殿下は何をお考えなのでしょう。平民の少女を王太子妃に迎えるとは」
殿下の口ぶりから、既に妃に迎えるのは決定事項のように見えた
思い込みの激しい方なので、思い付きで行動してしまう所が多々あるから心配になる。
「今の状況下で後ろ盾のない平民の少女をお迎え等すれば殿下のお立場が」
「そんな事までお前が心配する事ではない」
「ですが、万一内乱になったら。民はどうなりますの」
私達の行動一つで人を殺せるし、戦争にもなる。
今は王族派が貴族派を抑え込んでいる状況であるけど、ここでパワーバランスが崩れたらどうなるか。
頭が痛い。
例え、その少女がどんなに素晴らしいとしても。
後ろ盾がないならばどうなるか。
早まった行動をしなければいいのだけど、もう私が心配する資格もない。
もう婚約者でもないのだから。
「失礼します!」
「何だ?騒々しい」
「ティエゴ殿下がお越しになっております」
侍女のリィナが表情を強張らせていた。
恐らく良い話ではないことは解るけど、会わないわけには行かなかった。
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