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序章
プロローグ
しおりを挟む長きにわたり戦争が終結した。
タンタニア王国は小さな島国すぎず、敵国のアルテリア帝国の従国になる事になった。
この世界は人間以外の種族が存在し、魔法を使える者は重宝され。
特に我が国のように小さな国は攻撃魔法が使える魔導士は優遇される。
特に魔力の強い聖女は精霊の加護を持つ神の愛し子と呼ばれる。
身分問わず聖女となれば王族同様の地位を得る。
しかし国が弱体化した状態では聖女の立場は万能ではなかった。
「嫌よ…何で私が!」
「サンディ、落ち着くんだ」
「だって…私は聖女よ?なのにどうして」
アルテリア帝国の従国となる証として各国の王族やそれに近しい貴族は献上される。
いわば人質として後宮に入ることが義務付けられる。
ただその待遇は決していいものではない。
他国から妃として迎えられた姫君は多い為、籠の中の鳥となる一生を過ごす。
皇帝の寵愛を受けることはまずない。
後宮で命を落とす可能性もあると噂が絶えない帝国である。
本来ならば第一王女が献上されるはずだったが、王女は病弱でしかも体が弱く国境を超える前に命を落とす。
その為我が国の聖女。
サンディ・ドーリアン。
タンタニア王国の聖女であり、強い魔力を持つ。
「どうして私が…嫌よ」
「サンディ、こんなのあんまりだ。君が他国で僕の手から離れて遠くに行くなんて」
「離れたくなわ」
隣で恋人のように抱きしめるのは私の婚約者のアレウス・カステッド。
何所からどう見ても二人は幼馴染で旧知の仲と言われているは、第三者が見れば解るだろう。
「私は聖女よ。国の最後の砦のはずじゃない」
「ああ…だが王女殿下は体が弱く、婿を迎えることが決まっている。それに国境を抜けるのは無理だ」
帝国に向かうのは国境を越え、険しい山を越えなくてはならない。
その道中に魔物が襲いかかってくることもある、帝国はタンタニアと異なる氷の国と言われるほどの寒さだ。
体が弱い王女殿下では道中で命を落とす。
故に王族の代理として聖女を下賜することが決定した。
なのだが、サンディは敵国に行くのを嫌がった。
だが王命ならば従わなくてはならない。
しかもサンディは貴族令嬢だ。
貴族であれば猶の事逆らうことはできない。
なのだが…
「魔力があるなら君じゃなくてもいいのに…」
「どうして私なのよ」
二人は抱き合いながらも目が合った私を睨む。
その目は覚めるような視線だった。
口に出さなくても解った。
――何故お前じゃないんだ。
――お前が行けばいいのに。
そんな言葉がナイフにように突き刺さる。
私、イリス・アルジャーノンは王女殿下の侍女だ。
私が侍女に抜擢されたのは出来損ないの魔導士故にだった。
通常魔導士は魔術師よりも立場が上だが、私は結界魔法と治癒魔法。
しかも私は出来損ないの魔導士だった。
通常魔力を持つ者ならば攻撃魔法は使える。
優劣はあるけど、でも私は攻撃魔法が全く使えない。
最弱な魔物のスライムですら倒せない。
結界魔法も決して万能ではなく、治癒魔法も底辺だった。
そんな私は宮廷魔法師団から追い出された後に体の弱い王女殿下の世話係を任されたのだが、下働きでは外聞が悪く名ばかりの侍女となった。
王妃陛下の情けにより。
平民であることもあり私の存在はいてもいなくてもよい存在だった。
だからなのだろう。
二人が私を睨むのは。
そんな中、彼はこういった。
「サンディではなく、君が下賜されれば良かったんだ」
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