44 / 115
第二章
13残ったもの
しおりを挟む「お前は自分の欲望の為に殺したのよ」
「いや…止めてぇ!」
距離を詰めながらそっと耳に囁く。
「おめでとう?自分の幸福の為に多くの人を不幸にして」
悪魔の囁きのようにも聞こえる言葉だった。
エミリーは考えないようにした罪悪感があふれ出していく。
「子爵令嬢の犠牲の上で幸せになりなさい。私を侮辱して同情した目を向けたお前の母親同然の悪女」
「止めてください!エミリーは悪くない…何一つ」
「ええ?そうね?貴女は婚約者の心を抉り、自分の幸福の為に消えろと言ったのだから…これで自害でもすれば二人は共犯だものね」
「そんな…」
「この先幸福はないわ。地獄だけ…ごきげんよう」
言いたいことは全て言い終えたのか優雅に微笑みその場を去って行く。
残ったのは絶望と後悔とお金だけ。
借金まみれの状況ではお金はありがたいが、直ぐに底は尽きる。
社交界で失った信頼と多額の借金を支払うには足りない。
「これからどうしたらいいの…こんな。この程度のお金で何ができるの」
「母上、もう…」
「エスターは私達と縁を切ったわ。アルソート家からの援助は当てにできない、商人達も私をどんな目で見ているか。どうしてこうなったの」
自分は何一つ悪くないといいたげだったが、ライアンも同罪である事に気づきもしない。
「母上、これからもう一度やり直せばいいんです」
「ランドルフ…」
「二人で頑張って行こう。きっと乗り越えられる…誤解だって直ぐに解ける」
社交界の噂は真実よりも偽りが多く、これまでも虚偽の噂は多くあったので時間が過ぎれば噂は消えるだろうと思い込んでいた。
「兄上も悪い噂を流された時も噂を払拭できるように行動していた。大丈夫だ」
「ええ…そうね」
「そう簡単に行くといいけど」
ランドルフの前向きな姿勢に安堵するエミリーだったが、今回ばかりは楽観的になれないライアンは不安しかなかった。
「母上、三日後に結婚式があります。参列してくださるお客様もいるはずですから」
「ええ…」
「大丈夫です。冷え切った夫婦よりも愛で結ばれる方がそれだけ素晴らしいか」
未だに現実が見えていないランドルフは結婚式当日にどれだけ甘い考えだったか身に染みる事になる。
―三日後の結婚式当日。
「これは…」
「たったこれだけか」
結婚式は縮小したが、招待客の一割程度しか来ていなかった。
天候も悪く今にも雨が降りそうで幸福な結婚式とは言い難かった。
54
お気に入りに追加
4,024
あなたにおすすめの小説


婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?
Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」
私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。
さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。
ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

何故、わたくしだけが貴方の事を特別視していると思われるのですか?
ラララキヲ
ファンタジー
王家主催の夜会で婚約者以外の令嬢をエスコートした侯爵令息は、突然自分の婚約者である伯爵令嬢に婚約破棄を宣言した。
それを受けて婚約者の伯爵令嬢は自分の婚約者に聞き返す。
「返事……ですか?わたくしは何を言えばいいのでしょうか?」
侯爵令息の胸に抱かれる子爵令嬢も一緒になって婚約破棄を告げられた令嬢を責め立てる。しかし伯爵令嬢は首を傾げて問返す。
「何故わたくしが嫉妬すると思われるのですか?」
※この世界の貴族は『完全なピラミッド型』だと思って下さい……
◇テンプレ婚約破棄モノ。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。

王族に婚約破棄させたらそりゃそうなるよね? ……って話
ノ木瀬 優
恋愛
ぽっと出のヒロインが王族に婚約破棄させたらこうなるんじゃないかなって話を書いてみました。
完全に勢いで書いた話ですので、お気軽に読んで頂けたらなと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる