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第一章
17家族
しおりを挟むエスターの発言に二人は固まった。
貴族社会で嫡男が家を捨てるなんて笑い者にされる行為だった。
これまで理性的な行動をして、家の為に尽くして来たエスターは両親に、特に母親に逆らう事は一度もなかった。
長男ゆえに厳しく育てられ、対するランドルフは比較的自由に育てられて来たのだが。
「何を言っているの」
「兄上、正気ですか」
「お前の言う愛に生きるとはそういう事じゃないか?親を裏切り、周りを裏切り自分だけが幸福ならば良いのだろう」
「違う…僕は」
「私は、例えどんな形でも家族を、お前を守ろうと思った…だが、その必要はないな」
「どういうこと」
ライアンはエスターの言う意味が変わらない。
「これまで我が家を支えてくれたミリアをそんな風に見ていたとは。エミリー嬢に子が出来たら追い出すつもりだとも受け取れる」
「なんて事を!」
「ならば何故、ランドルフの事だけしか考えなかったのですか。私やこの家の未来、そして使用人達の事をまるで考えていない、生まれて来る子供の将来までも」
「子供?まさか…」
「残念ですが、跡継ぎではない出来損ないですが」
お腹をさすりながら冷たく言い放つ。
「ようやく身ごもりましたが、こんな環境では安全に出産できませんので実家に帰ります」
「私もミリアと生まれて来る我が子とこの家を出ます」
「そんな…待って!」
ライアンは待望の孫ができた事を喜ぶのも束の間。
早々にこの家を出て行くことを告げる。
「私達のような人間がいては窮屈だろう。今後はお前がオイシス家の当主だ…母上は療養施設に入れて、精神を病んだという事にする」
「何故です…」
「そうした方が社交界の風当たりがマシになる…まぁ付け焼刃だが。その後はお前が一人でなんとかしろ。この家の財産は持たずにミリアの実家に身を寄せる」
「オイシスの名を捨てる気ですか」
「私にとって、重荷でしかなかった。幼い頃から自由もなく耐えて来たが…愛想が尽きた」
ずっと認めて欲しいと頑張って来た。
理解者の父は病で亡くなり、母はランドルフを溺愛していた。
その上妻を馬鹿にされては耐え切れない。
「私は操り人形じゃない!」
「待ってエスター…お願い」
「兄上!待ってください」
「慰謝料に関しては私が支払おう、最後に兄としての情けだ」
背を向けそのまま去って行くエスターに二人はその場で動けなくなる。
しかし長男であるエスターがいなくなったことでオイシス家は更なる危機に晒されることになるのだった。
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