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序章婚約破棄編
プロローグ
しおりを挟む神々と妖と人が共存する世界。
平安時代より前から人ならざる種族、妖という存在がいた。
人間は妖を使役し、中でも異能の一族は特殊な能力を持っていた。
神獣と呼ばれる存在の加護を持つ者は共に異能の一族を妻に持つことで一族を反映させていた。
故に異能の力が強ければ家が反映すると言われていた。
しかし、中には異能の力がない娘が生まれることがあると言われていた。
「お前は疫病神だ。異能の一族に生まれながら美しさも知性も、加護もない」
矢内千春は異能の一族に生まれながら一切の力がない。
あるのは付喪神と呼ばれる小さな神様を使役することぐらいだ。
使役といっても調伏などはできない。
力が弱すぎて役に立たないのだ。
「異能の娘なのに詐欺だ。お前は結婚詐欺だな。この嘘つきめ!」
「そんな…私は騙してなんか」
「異能がないだけで役立たずなのに。女として一切の魅力もない出来損ないだ。俺の目の前から消えろ」
返す言葉も許されなかった。
同年代の友人よりも小柄で発育も遅く、許嫁の橘文彦は千春を毛嫌いしていた。
その隣には…
「千春が可哀想よ」
「いいんだ。こんな出来損ないに優しい言葉はいらない。本当にお前は天女のようだな」
優しく肩を抱きながらはだけた着物の親友。
「お蘭ちゃん…」
「ごめんなさいね千春」
「お前は悪くない。そもそもお前の努力が足りないからだ。蘭を責めるのはお門違いだ!」
突き飛ばされた拍子に、傍に置かれていた壺がひっくりかえり薬まみれになる。
「お前にはそれがお似合いだ。俺を幸せにしてくれる天女は蘭だ…お前に用はない」
「文彦さ…」
「馴れ馴れしく名を呼ぶな!落ちぶれた家の娘が!」
水をかけられ屋敷から追い出される。
「お前の間に子供なんてできたら出来損ないが生まれるだけだ。この疫病神が!」
「あまり乱暴な事をしないで」
「本当に優しいな蘭」
千春を助けようとしながらも見せつけるようにあざ笑う蘭はクスクス笑っていた。
このままここにいても意味がない。
屋敷の玄関が開いていることから通りかかる人にもヒソヒソ囁かれている。
泣いてはダメだ。
耐えろと自分に言い聞かせながら千春は泣くのを我慢した。
「承知しました」
「フンッ!物わかりの悪い女だ」
頭を下げてその場を去ることになった千春は顔を俯かせながら汚れた着物のままで去っていく。
「なにあれ?」
「みっともない恰好」
すれ違う町の人達は年頃の娘がはしたないと中傷するが。
「あれよ。出来損ないの」
「ああ疫病神の」
千春に気づき納得しさらに中傷する。
町では千春は蔑まれていた。
その理由が異能の家に生まれながら無能だったからだ。
全く力がないわけではないが役に立たない。
それでも幼少期は必至で能力を伸ばすべく修業をしたのだがわずかな力しかなく周りは落胆した。
異能の姫だと思って縁談を結んだ文彦の母親も落胆を示し千春につらく当たるようになったのだ。
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