名乗る程でもありません、ただの女官で正義の代理人です。

ユウ

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第一章

7敵地

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外観は煌びやかだけど、見た目だけだった。
派手さしかない品のない作りに店内のディスプレイもなっていない。


「ボロネーゼ商会と月とスッポンね」



甘ったるいコロンの香りに、換気を頻繁にしていないからだろう。


「お客様、何かお探しでしょうか?」

「ドレスを新調したかったのだけど、商品はここにあるだけかしら?」

「えっ…」


「やっぱり祖国とは勝手が違うのね?」


私に声をかけて来たのはカスケード夫人。
この店の女主人だ。


「以前はボロネーゼ商会にオーダーメイドで作っていただいていたのだけど。今は休業しているので、こちらにこさせていただきましたの」

「そっ…そうでしたか」

「あちらはデザインも素晴らしくて何より生地が一級品だったものだから」


遠回しにあちらの方がずっと上だと強調する。


「主人からお金はどれだけかかっても良いから最高のドレスをと思ったのです。特にセリア夫人のデザインするドレスはどれも素晴らしいと聞いてますの」


「左様で」

「でも最近は新しいデザインをされていると聞いてました…ですが商会はしばらく閉じていて。困ったわ。これでは大事なパーティーに間に合わないわ。王族主催の舞踏会ですのに」

「王族…」

解りやすく反応するわね。
独占販売をすればそれだけ稼ぎになる。

下級貴族の場合は、できるだけ身分が高い貴族に宣伝してもらう事で新たな顧客を得るのだ。


「うちの人も参加するからどうしてもねぇ?」

「失礼ですが旦那様おご職業は…」

「文官ですわ。先日までは文官秘書だったのですが、上司に功績を認められたのですが。上司が氷の長官ですから身なりにも気をつけなくては」

「氷の長官…」


乗って来たわね。
氷の長官と言えば、王宮でも有名人だ。

家柄、血筋、財とすべてを持っている。
実家はかなりの資産家だし、個人資産も莫大だった。


「今度のパーティーは同盟国の貴賓をお呼びしているから最高の装いをしなくてはなりませんの?けれど、ボロネーゼ商会以上の商会は知らなくて」


「お客様!我が商会にお任せを最高の品を!ボロネーゼ商会と共同経営していましたから」

「まぁ、ではセリア夫人とも親しいのかしら?」

「ええ…ですが、彼女は精神を病んでいまして」

「過労だと聞いていたのですが…何かあったのでしょうか」

「それは…」


口ごもるカスケード夫人に近づく。

「大事な事なのです。今回のパーティーで国一番のデザイナーを紹介するように言われてまして」

「え…」

「王家直属のお針子を探しているそうなのです」


嘘は言っていない。
王妃陛下が新しいデザイナーを探しているのは事実。

甘い言葉に騙される人間は馬鹿が多い。
今から踊って貰うわよ。

最高の舞台で踊らせてあげる。


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