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序章ヒロインの親友として転生

1下町食堂の少女

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シェーメルス王国の王都、アルテリア。
その下町には小さな食堂があった。


名をミルフィーユ。
二階建ての三角屋根の家で、こじんまりとしているが下町食堂の中でもダントツに人気だった。


ミルフィーユの主、サルジュと孫のリーシェ二人で営んでいた。
商業ギルド達からも大人気でお手軽に食べられる事から食事時は込み合っていた。


「リーシェ、三番テーブルにエールだ」

「はい!」

忙しなく働き蜂のように働くのはまだ幼さが残る少女だった。


「お祖父ちゃん!五番テーブルに前に来てくれたお客さんだよ。きっとお祖父ちゃんのシチューを食べに来たんだよ」

「よし、すぐに準備だ」

「後は三番テーブルに子供連れのお客さんいるわ」

まだ幼いリーシェであるが、看板娘としてだけでなく給仕係としては完璧だった。
一度来た客の名前と顔を忘れる事はなく、また一度来た客が好んで頼んだ料理を忘れることはなかった。


その為、どのタイミングで進めたらいいか。
客が何を求めているかを絶妙なタイミングで把握していた。


「リーシェ、客足も落ち着いて来たからパンを孤児院と修道院に届けてくれ」

「はい」

「院長先生達によろしく言っといてくれ」

「はぁーい!」


バスケットにパンと葡萄ジュースを入れて店を出て行く。



「急げ急げ!」


毎日修道院と孤児院にパンと葡萄ジュースを届けるのが日課になっていた。

「きっと皆お腹空かせているわ」

速足で急ぐ中、道のど真ん中で倒れている人がいた。


「うっ…」

「大丈夫ですか!」


道のど真ん中で倒れているのに誰も声をかけなかった中、リーシェは声をかける。

「もしかしてお腹が空いているんですか」

「いや…」

ロープを被っていたので顔は見えなかったが風が吹き微かに顔が見える。


(うわぁー…すごく綺麗な色)


海よりも深い色の瞳に、太陽のように輝く瞳に引き寄せられる。


「よかったらどうぞ」

「これは?」

「パンと葡萄ジュースです。これを食べれば元気になるわ」

「だけど…」

躊躇する少年に、リーシェは告げた。

「お腹が空いてたら元気になれないわ。お腹が満たされたら心もみたされわ」

「えっ…」

「笑顔の花が咲くんです」


パンと葡萄ジュースを差し出しリーシェは明るく笑いながらその場を去った。



「笑顔の花…」


この時、運命の悪戯なのか。
二人は出会ってしまった。

必然か、偶然化は誰にも解らないが。

この出会いが運命の歯車を狂わせることになる事を二人は知るはずもなかった。


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