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第四章
32裁判③
しおりを挟むこれで俺に敵意を向けるのはあの二人だけだ。
群衆の力は時として少人数の権力者よりも恐ろしい力を持つ。
「この悪魔!」
「お前など人間じゃない!」
「死刑だ!」
「「「死刑だ!」」」
群衆に指を差され罵倒を浴びせられる事の恐ろしさを今まさに身を持って知るが良い。
身動きが取れない中、この殺意は耐えられるか。
「静粛に!」
裁判長がこの場を収めようとする。
「既に証拠は明らかだ…被告は有罪とする」
「そんな!」
「ふざけるな!こんな事が…」
有罪になるとは思わなかったのか、今度が裁判長を罵倒するも。
「殺人罪に幼児虐待、殺人未遂の罪は軽くない」
「待って…私は!」
「よって二人は死ぬまでその罪を償わなくてはならない」
ダニアは真っ青になって怯えるが、今さら遅い。
「二人は無期懲役とする」
一生労働して罪を償う事だ。
ある意味死刑になるよりも屈辱だが、あの二人には相応しい。
「重すぎる罪を犯し続けた二人には北の領地で祈りながら罪を悔いて反省するがよい」
「そんな北の領地だなんて…」
「殺す気か!」
裁判長が言う北の領地とは極寒の地で食料も満足にない一年中冬の領地だ。
野生の狼が襲ってくることもある。
毎年餓死する者が多く、生きていくのも難しい。
「離せ!俺は北の領地なんて行きたくない」
「嫌よ!私は悪くない…全部仕組まれたのよ!私は悪くない…そうよシェパードに騙されて」
「ふざけるな!この俺を売る気か」
「何よ!全部お前が無能だから悪いのでしょう…こんな…こんな目に合ったのも全部お前の所為よ」
なんて醜いやり取りなのか。
あれだけ溺愛していた癖に、最後は自分が可愛いのだろう。
何処までも醜い。
所詮はあの女が愛しているんは自分自身だけだった。
「私はこんな所で終わる人間じゃない!私は!」
連行されながらも最後まで自分は悪くないと周りの責任にするだけだ。
騒げば騒ぐ程立場が悪くなる。
この場には新聞記者も参加しているのだから。
「アンリ!私を助けなさい…マリーを呼びなさい!」
「マリーはここには来ませんよ。二度と貴女の目の前に現れる事はない」
騒ぎたかったら騒げば良い。
何を言われても痛くも痒くもない。
「鬼!悪魔!アンタは人の皮を被った悪魔よ」
どの口が言うのか。
お前達がこれまでして来たことはそれ以上の非道な事だと自覚がないのか。
俺が悪魔ならばお前達はなんだと言うんだ。
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