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第六章.逆行した世界で
3.ジレンマ
しおりを挟むすっかり元気をなくしたマリーが心配になったチャールズは中等部に来ていた。
(大丈夫だろうか…)
普段は呆れるほど前向きなマリーだが、今回ばかり堪えたのかもしれないと思った。
「チャールズ様?」
「アネット」
「どうなさいました?」
高等部のチャールズが中等部にいるのに驚くもすぐに用向きが解った。
「マリー様でしょうか」
「ああ、サングリアにあれだけ言われたから心配になってな」
手には薔薇の花束を持っていた。
一緒に可愛くラッピングされた菓子も一緒だった。
(すごく可愛い花束とお菓子…)
アネットはもやもやした。
チャールズは誰にでも優しいが、マリーに対しては特別のように思った。
きっとお取り寄せだろうと思ったのだが、学園内の購買部にはこんな手の込んだお菓子はないので、使用人に用意させたんだろうと思ったのだが…
「購買部のお菓子は売り切れていたから急いで作ったんだが」
「はい?」
「マリーの大好物のアップルパイを作ったんだ」
(手作りだったの!)
以外にも家庭的なチャールズに驚く。
「どうしたんだアネット」
「いえ、チャールズ様は器用なんですね」
「まぁ、マリーが小さい頃は食が細くてよく病気になっていたからな。その影響もある…お菓子作りは好きだったし。今では趣味だ」
優しい笑みを浮かべるチャールズは昔を思い出す。
「マリーは本当に大きくなって…」
(何故かしら、さっきまで嫉妬していたのに)
ホロリと涙を流す姿を見て、我が子の成長を喜ぶ母親のようだった。
焼きもちを焼いてしまうが、さっきまで抱いていた黒い感情は少しだけ消えつつあった。
「マリーはいるかな?」
「いいえ、今はいません」
「そうか、焼き立てを食べてもらおうと思ったんだが、渡しておいてくれるか」
「はい」
がっかりした表情でそのまま去って行く背中を見守りながらアネットは教室に戻って行った。
(チャールズ様は、マリー様の事をどうおもっているのかな?)
二人は元婚約者であるが、今でも互いに思いあっているのは解る。
ただし恋かどうかまでは解らない。
マリーはチャールズを愛称で呼び、慕っている。
対するチャールズもマリーを気にかけているようにも見えるが、二人の関係が解らない。
ただ、気になって仕方なくまたモヤモヤした気持ちになるのだった。
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