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間章一奇跡の出会い

6.君は風~アレクシスの悩み

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カステリア王国の唯一の王子として生まれたアレクシスは幼少期から厳しく育てられ、次期王として英才教育を受けていた。

王に側妃がおらず、中々子供を授かる事ができない王妃は病で倒れてからというもの、臣下は側妃を向かるように進言するも、頑なに首を縦に振らなかった王に周りは不満を抱き始めた。


まわりは王妃としての役目も果たせないのならば離婚をと考える声も上がったが、それこそ国を揺るがすことになりかねないと、幼いながらに察していたアレクシスは、臣下の浅はかな行動に嫌気がさしていた。

彼らは自分の保身しか考えていなかった。
世継ぎ問題は重要であるが、今すぐに考えるべき問題ではなかった。

むしろ、今の段階でいきなり側妃を迎えれば、王妃の祖国に知られれば同盟に亀裂が生じるのは明白だった。

当時の婚約者、ジョアンナは王妃を亡き者にして貴族派を正妃に迎える魂胆だと判断し、アレクシスに助言をした。



「殿下、彼らの口車に乗ってはなりません…貴族派の好きにさせては国が潰れますわ」

「解っている…」

「今は病で臥せっておりますが、王妃陛下はお強い方ですわ。必ず回復するはずです。どうか気を確かに」

年下のジョアンナは社交界でも完璧な令嬢と呼ばれるだけあって、常に弱みを見せることなく気丈夫だった。

しかし、王妃の体調は日に日に悪化し、社交界では噂を流され、アレクシスの精神は限界だった。

そんなおり、ジョアンナ以外の婚約者候補を紹介されるも、心が動くことはなかった。
母が死にかけの状況で複数の婚約者候補はご機嫌取りと、言葉だけの慰めをされるだけで、アレクシスの心を慰めてくれることはなかった。


これならば、厳しい事を言ってでも励ましてくれるジョアンナの方が幾分かマシだった。
ジョアンナは甘い言葉だけをかけるような真似はせず、時には厳しい言葉を投げかけながらも奮い立たせようとしてくれる。


結局、ジョアンナぐらいしかいないのだろう。
国を、民を思う令嬢は同じく王族である彼女ぐらいだと思った。


そんな時だった。


マリー・サンチェストに出会ったのは。

貴族令嬢として足りない部分が多いとも思ったが、他の令嬢とは異なる何かを感じた。

姉の代わりに婚約者と別れさせられ、故郷からも離れなくてはならないマリーに、当時は不憫だと思ったが、そんなことを感じさせない程元気で明るく、王宮は王妃の病で暗くなっていたが、マリーのおかげで賑やかになった。

騎士団も侍女も巻き込みながらも、マリーの突拍子ない行動はいい方向に向かい。

誰もが諦めた王妃の病気を治す方法を探し出した。
そのおかげで王妃は元気になり、長年母と息子の間にできた溝を埋めてくれたマリーに感謝した。

しかしその一方でアレクシスは感謝以上に、マリーに婚約者として以上の感情を抱いてしまったと知ったのは後の祭りだった。



「マリー…」

執務の合間にマリーの姿を見て腑抜けになるアレクシスを側近や侍女が呆れた視線を送るのは、日課になっていた。


「殿下、そのようなお姿を外で晒さないでください」

「ハリソン夫人…俺はどうしたらいいんだ。俺はマリーに恋をしてしまったようだ」

「初恋ですか。それはようございましたね」

「マリー…」

恋煩いに悩みながら今日も苦しみながらマリーを見つめる姿は、初恋に悩む少年そのものだった。


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