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第三章悪役令嬢の道
27.もう一つの出会い
しおりを挟むその頃、チャールズは領地にて疲れた表情をしていた。
「はぁー、どうしたものか」
サングリアの横柄な態度は一向に改善されず、使用人との間もぎすぎすしていた。
とは言え、基本的な礼儀作法は問題なのだが。
「この領地で礼儀作法はそこまで役に立たないんだがな」
ある程度必要ではなるが、一番必要なのは領地経営と隣接する領地と有効な関係を築く事だった。
このままでは絶対にまずい。
馬を走らせながら隣接する領地に向かっていた頃の事。
「お願いします…どうか!」
「ダメだ…帰ってくれ!」
教会の前で口論を続ける一人の少女。
「母が病気なんです。どうかポーションをお分けください!」
「金もないのにポーションを売れるわけがないだろ…帰ってくれ!」
「きゃああ!」
門番に突き飛ばされる少女を見てチャールズは急いで駆け寄る。
「やめないか!」
「なんだお前は!」
乱暴な扱いを受ける少女を庇う様にチャールズが駆け寄るも門番は声を荒げるが、もう一人の門番が止めに入る。
「よせ、この方は…」
「ここではか弱い少女に乱暴な真似をするのか」
睨みつけるチャールズに門番達は冷や汗を流す。
さっきまで横柄な態度を取っていた門番も、チャールズが首掛けているペンダントを見てすぐに誰か解る。
「いいえ、この者が許可もなく教会に入って来てポーションを欲しいと」
「ポーションは貴重で貴族様でも手にすることは難しいのです。それを、お金もなく欲しいと言われましても」
バツの悪そうな顔をする門番。
彼等にも言い分があるので片方を責めるのは間違っている。
「そうだったか…だが、乱暴な真似は止めるように。彼女とて藁をも掴む思いで教会を頼ったのだ。教会は国の援助に成り立っている。そしてのその金は国民の税だ…国民を粗末に扱うことは控えてくれ」
「はっ…」
「心得ました」
チャールズは少女に手を差し出す。
「立てるかい?」
「はっ…はい」
怯えた少女にできるだけ優しく接し、その場を離れて行った。
「教会は慈善活動の場所じゃないから、気を付けた方が良い。特に貴族にご機嫌取りをしている教会も多いからね」
「でも…教会に行けば、ポーションを貰えると聞いて。それで…」
「もらえるのは限られた人間だけだし、欲している人は多いから難しいよ」
かつて教会は慈善活動の場だったが、今では貴族のご機嫌取りの場に変わりつつある。
奉仕活動をしている教会もあるが、数は少なかった。
「教会のポーションとまでは行かないけど、これを持ってお帰り」
「えっ…」
少女に手に渡されたのは小瓶だった。
「聖女様の作ったポーション程の効果はないけど、我が領地で作った薬草だ」
「いいのですか…」
「ああ」
少女の瞳から涙がこぼれた。
ポーションを得ることは出来なかったが、薬と食料を得ることができた。
これなら病気の母を助けられるかもしれない。
「私はチャールズ…チャールズ・モーリスだ。君は?」
「アネット・キャンドルです」
「そう素敵な名前だね…道中気をつけて」
穏やかに笑いながら去って行くチャールズを少女ことアネットは見つめた。
「チャールズ・モーリス様」
その名を刻み込むようにしながらその場から離れることはなかった。
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