今日から悪役令嬢になります！～私が溺愛されてどうすんだ！

第三章悪役令嬢の道

16.織物の女神

大きな邸の中にある離れにて。


「わぁー、すごく素敵なドレス」

「申し訳ありません、こういった地味なものしかなくて」


ずぶ濡れになったマリーに着替えとお茶を用意するロザリア。


「十分です。綺麗な花柄」

「ありがとうございます」

「すごく可愛くて素敵なドレス。何処のお店で買ったんですか？」

嬉しそうにドレスの裾を持つ。
白いワンピースにピンクの花柄がとても美しく、腰元のリボンも可愛いかった。


「…た…し…です」

「はい？」

か細い声を出しながら聞こえた。


「このドレスを作ったのは私です」

「え？これをロザリア様が？」


普通のドレスとは異なり動きやすく素材も良い。
締め付けもあまりなく動きやすかった。


「普通のドレスは窮屈なのにすごい。ロザリア様はすごいですね」

「えっ…そんな。母に教わって」

「ロザリア様のお母様はアリアドネですね」

「えっ…」

聖書でも有名な女神の一人で、糸を司る女神だった。
運命の糸を司るともいわれている、神話では数多の女神の美しい装いはアリアドネによって作られたともいわれる。


平民の中では裁縫美人こそ最高の妻とも言われる程だった。

「私のお母様も伯母様も裁縫はまったくできないもの」

「えっ…そうなのですか？」

「普段から怒ってばかりだから、裁縫みたいに細かい作業はできないのね。少しは静かに刺繍をして心を落ち着かせればいいのに」


他人事のように言うが、リリアンヌは細かい作業が苦手というわけじゃない。
邸で心穏やかに過ごしたいが、マリーの存在が原因だとは本人も気づいていなかった。


「それにしても、テーブルクロスも素敵！これもお母様が？」

「この部屋にある小物やテーブルクロスは私が作ったんです」

「えっ…これ全部を？」


部屋に飾られている美しいレースやカーテンに目を輝かせる。


「ロザリア様は織姫ね！」

「織姫？」

「東洋の神話で、天界の神様の娘で、織物が上手な天女なんです」


冷や汗を流しながら上手く誤魔化す。
この世界に七夕物語が存在するか解らないが簡単に説明した。


「私が天の神様の…」

「織姫っていうんですけど。すっごく織物が上手なんです。アリアドネに負けないぐらいの才色兼備の美しい天女様なんですよ」


「でも…私なんか」


自分に自信が持てないロザリアは顔を俯かせる。


「私なんて雑巾もろくに繕えませんわ！」

「えっ…はぁ」

胸を張って言うことではないのだが、何故か堂々と言っていた。


「わぁー、このお茶すごく美味しい！」

「ハイビスカスのお茶です。花を育てるのが好きで…」

「ロザリア様は多才なんですね！お裁縫もできてお花を育てる才能があって…羨ましいです」


マリーは邪心の欠片もない表情で言い放つ。
その笑顔に疑いの余地はないほどだったので、ロザリアは驚いた。


「物を生み出すのは簡単じゃありません。技術だっているんですから…お母様はさぞ素敵な方なのでしょうね！」

「マリー様…ありがとうございます」


ロザリアはふわりと笑みを浮かべた。


その笑顔は花が綻ぶような笑顔だった。