上 下
48 / 168
第三章悪役令嬢の道

5.誤解の始まり

しおりを挟む



周りの視線に気づくことなく、マリーは内心でガッツポーズをしていた。

初めての悪役令嬢としての振る舞いに満足していた。


「ありがとうございます、マリー様」

「ジョアンナ様!ご機嫌麗しゅうございます!」


上品に微笑むジョアンナに満面の笑みを浮かべる。


「うわぁー、今日も煌びやかですね」

「私がデザインしましたのよ」

「妖精のようなひらりとしているのに…シック感があって素敵です」

「ありがとうございます」

言葉だけのお世辞ならば、幾度も聞いてきた。
だが、マリーはデザインそのものを見て賛美するのでジョアンナは気持ちがよかった。


「ジョアンナ様にいただいた万年筆、すごく書きやすくて、私でも字が綺麗に見えるんです」

「まぁ、マリー様ったら」

「普通の万年筆だと、インクが跳ねてしまうのに不思議です」

初めて出会ったお茶会でお近づきの印として貰った万年筆を見せる。
常に携帯し、手帳に挟んでいることから愛用しているのが解り、ジョアンナは嬉しくなる。


「大切にしてくださっているんですのね」

「もちろんです!」


社交辞令代わりだと判断する貴族は多いが、ちゃんと愛用してくれたことはない。

表向きに愛用していますアピールをされても、実際に使っていることなどほとんどないので製作者としては嬉しい限りだった。


「こんな万年筆がもっと沢山あったらいいのに」

「もっと?」

「はい、羽ペンはインクを付けないといけないから面倒ですし…沢山書類を書いたり、お手紙を書く人からすれば、こんな万年筆があったら助かると思います」


マリーの言葉にジョアンナは衝撃を受けた。
これまで質の良いものを作ることに囚われていたが、沢山の人に使ってもらえるには価格を抑えなくてはならない。

だが、製作者側としては。


――もっと沢山の人に使って欲しい!


一部の貴族だけではなく、本当に必要としている人に使って欲しかった。


「素晴らしいアイデアですわ」

「え?」

「マリー様、ありがとうございます」


何故お礼を言われて困惑するも。


「見ろ、ジョアンナ様が握手を」

「あの氷の女帝が…」

「もしや!」


社交界では氷の女帝と呼ばれる程に、隙がないジョアンナにつけられた異名だった。

そのジョアンナ親し気している所を見た他の貴族達は勝手に誤解をし始める。


「マリー様、ジョアンナ」

「おば様」

「グレイス様」


間の悪いことに、グレイスが現れ状況は去らなに悪化した。


「グレイス様が真っ先にお声を!」

「ありえない…しかし!」


社交界では身分が高い者から声をかけるのが決まりだった。
通常ならば王族から貴族に声をかけるのが、大人同士の挨拶から始まり、声をかけた貴族の令息と息女にも声をかけるのだが、他の貴族にも目もくれず、真っ先にマリーに声をかけていた。


「グレイス妃からお墨付きをいただいているなんて」

「私達もあの中に入らなくては!」

「そうですわ。お声をかけていただかなくては」


社交界ではより高位な身分の貴族に気に入られることが出世の近道だったので、媚びを売る貴族は多かった。

しかし、そんな視線にグレイスが気づかないわけもなく。
直ぐに壁となり、欲の塊の連中からマリーを隠し、ジョアンナにアイコンタクトを取りながらその場を去って行くのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

学園首席の私は魔力を奪われて婚約破棄されたけど、借り物の魔力でいつまで調子に乗っているつもり?

今川幸乃
ファンタジー
下級貴族の生まれながら魔法の練習に励み、貴族の子女が集まるデルフィーラ学園に首席入学を果たしたレミリア。 しかし進級試験の際に彼女の実力を嫉妬したシルヴィアの呪いで魔力を奪われ、婚約者であったオルクには婚約破棄されてしまう。 が、そんな彼女を助けてくれたのはアルフというミステリアスなクラスメイトであった。 レミリアはアルフとともに呪いを解き、シルヴィアへの復讐を行うことを決意する。 レミリアの魔力を奪ったシルヴィアは調子に乗っていたが、全校生徒の前で魔法を披露する際に魔力を奪い返され、醜態を晒すことになってしまう。 ※3/6~ プチ改稿中

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

築地シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

全てを諦めた令嬢の幸福

セン
恋愛
公爵令嬢シルヴィア・クロヴァンスはその奇異な外見のせいで、家族からも幼い頃からの婚約者からも嫌われていた。そして学園卒業間近、彼女は突然婚約破棄を言い渡された。 諦めてばかりいたシルヴィアが周りに支えられ成長していく物語。 ※途中シリアスな話もあります。

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

悪役令息、拾いました~捨てられた公爵令嬢の薬屋経営~

山夜みい
恋愛
「僕が病気で苦しんでいる時に君は呑気に魔法薬の研究か。良いご身分だな、ラピス。ここに居るシルルは僕のために毎日聖水を浴びて神に祈りを捧げてくれたというのに、君にはがっかりだ。もう別れよう」 婚約者のために薬を作っていたラピスはようやく完治した婚約者に毒を盛っていた濡れ衣を着せられ、婚約破棄を告げられる。公爵家の力でどうにか断罪を回避したラピスは男に愛想を尽かし、家を出ることにした。 「もううんざり! 私、自由にさせてもらうわ」 ラピスはかねてからの夢だった薬屋を開くが、毒を盛った噂が広まったラピスの薬など誰も買おうとしない。 そんな時、彼女は店の前で倒れていた男を拾う。 それは『毒花の君』と呼ばれる、凶暴で女好きと噂のジャック・バランだった。 バラン家はラピスの生家であるツァーリ家とは犬猿の仲。 治療だけして出て行ってもらおうと思っていたのだが、ジャックはなぜか店の前に居着いてしまって……。 「お前、私の犬になりなさいよ」 「誰がなるかボケェ……おい、風呂入ったのか。服を脱ぎ散らかすな馬鹿!」 「お腹空いた。ご飯作って」 これは、私生活ダメダメだけど気が強い公爵令嬢と、 凶暴で不良の世話焼きなヤンデレ令息が二人で幸せになる話。

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

処理中です...