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第三章悪役令嬢の道
5.誤解の始まり
しおりを挟む周りの視線に気づくことなく、マリーは内心でガッツポーズをしていた。
初めての悪役令嬢としての振る舞いに満足していた。
「ありがとうございます、マリー様」
「ジョアンナ様!ご機嫌麗しゅうございます!」
上品に微笑むジョアンナに満面の笑みを浮かべる。
「うわぁー、今日も煌びやかですね」
「私がデザインしましたのよ」
「妖精のようなひらりとしているのに…シック感があって素敵です」
「ありがとうございます」
言葉だけのお世辞ならば、幾度も聞いてきた。
だが、マリーはデザインそのものを見て賛美するのでジョアンナは気持ちがよかった。
「ジョアンナ様にいただいた万年筆、すごく書きやすくて、私でも字が綺麗に見えるんです」
「まぁ、マリー様ったら」
「普通の万年筆だと、インクが跳ねてしまうのに不思議です」
初めて出会ったお茶会でお近づきの印として貰った万年筆を見せる。
常に携帯し、手帳に挟んでいることから愛用しているのが解り、ジョアンナは嬉しくなる。
「大切にしてくださっているんですのね」
「もちろんです!」
社交辞令代わりだと判断する貴族は多いが、ちゃんと愛用してくれたことはない。
表向きに愛用していますアピールをされても、実際に使っていることなどほとんどないので製作者としては嬉しい限りだった。
「こんな万年筆がもっと沢山あったらいいのに」
「もっと?」
「はい、羽ペンはインクを付けないといけないから面倒ですし…沢山書類を書いたり、お手紙を書く人からすれば、こんな万年筆があったら助かると思います」
マリーの言葉にジョアンナは衝撃を受けた。
これまで質の良いものを作ることに囚われていたが、沢山の人に使ってもらえるには価格を抑えなくてはならない。
だが、製作者側としては。
――もっと沢山の人に使って欲しい!
一部の貴族だけではなく、本当に必要としている人に使って欲しかった。
「素晴らしいアイデアですわ」
「え?」
「マリー様、ありがとうございます」
何故お礼を言われて困惑するも。
「見ろ、ジョアンナ様が握手を」
「あの氷の女帝が…」
「もしや!」
社交界では氷の女帝と呼ばれる程に、隙がないジョアンナにつけられた異名だった。
そのジョアンナ親し気している所を見た他の貴族達は勝手に誤解をし始める。
「マリー様、ジョアンナ」
「おば様」
「グレイス様」
間の悪いことに、グレイスが現れ状況は去らなに悪化した。
「グレイス様が真っ先にお声を!」
「ありえない…しかし!」
社交界では身分が高い者から声をかけるのが決まりだった。
通常ならば王族から貴族に声をかけるのが、大人同士の挨拶から始まり、声をかけた貴族の令息と息女にも声をかけるのだが、他の貴族にも目もくれず、真っ先にマリーに声をかけていた。
「グレイス妃からお墨付きをいただいているなんて」
「私達もあの中に入らなくては!」
「そうですわ。お声をかけていただかなくては」
社交界ではより高位な身分の貴族に気に入られることが出世の近道だったので、媚びを売る貴族は多かった。
しかし、そんな視線にグレイスが気づかないわけもなく。
直ぐに壁となり、欲の塊の連中からマリーを隠し、ジョアンナにアイコンタクトを取りながらその場を去って行くのだった。
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