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第一章逆行した世界
20.手紙
しおりを挟む領地から届いた手紙を読むと、二人はさらに頭を抱えたくなった。
「こっ、これは…」
「さらに問題だわ」
手紙にできるだけ簡潔に書かれていたが、サングリアが早速領民と亀裂が生じていることがツラツラと書かれていた。
「サングリアは王都育ちですから、カルチャーショックが酷いようですわ」
「まぁ、王都の貴族の暮らしとは異なりますから」
最初こそ、厳しい目をしていたリリアンヌはこればかりは仕方ないと思っていたのだが、手紙に書かれて内容は頭が痛くなるものばかりだった。
「サングリアは淑女教育はともかく、領主としての気構えがまるでできておらず。また、他の貴族との当たりが厳しく、口論が絶えず…困ったことになっている?」
「会話も教養があれど、領地に関して関心を持つことから始めなくては領民の心を掴むことは難しく、既に侍女長と執事長とは険悪な関係になり、他の貴族からもクレームが殺到しているとのこと」
グシャ!
「リリアンヌ…」
「失礼しました。まぁ、最初から上手く行くわけありませんもの…」
マリーだって最初から全て上手くいったわけではないが、マリーは根が明るく素直で我慢強く、年配者の言う事はちゃんと耳を傾けていた。
最初こそは他の貴族に意地悪をされても常に笑顔を忘れずにいた。
その努力の甲斐があって、隣の領地の貴族とも打ち解けることが出来たが、一人でできたわけではない。
常に励まし、叱咤してくれた優しい従兄弟がいた。
けれど、いきなりサングリアが領地に来て、上手く行くなんてありえない。
「チャールズとも不仲のようで…」
「ああ、なんてこと」
元からチャールズはサングリアに対していい感情を抱いていなかった。
親から引き離され寂しい思いをしているマリーが不憫でならなかったのに、サングリアはたまに会ってもマリーを思いやる言葉はなく、マリーの作法の無さを指摘するばかりだった。
サングリアに悪気はないが、公爵家で大事にされすぎているサングリアに思う所もあった。
何よりお姫様扱いをされて当然のサングリアとはやりづらく、経験が少ないので助言をしても自尊心の塊のサングリアは素直に聞くことはない。
「チャールズの助言は却下され、その態度が傲慢だと領民が反感を買っているとか」
「古くから我が家に仕えてくれていた領民がいるでしょう?」
コレットは冷や汗を流しながら尋ねるも。
「歓迎の印に料理を提供したらしいですが一口も食べず、貧乏くさいと文句を言ったそうですわ」
「なんですって!」
歓迎の印に提供した料理とは、サンチェスト領地の名物、カモイルカシチューだった。
このシチューはサンチェスト領地の特産物で自慢の品だった。
これをまずいと言う事は、彼を侮辱する行為だった。
「「最悪だわ」」
マリーのお妃教育以上にサングリアの領地代行教育の方がずっと難航しているのだと知る二人だった。
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