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第一章逆行した世界

14.おじさん

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約束の手紙もなくいきなりの訪問に公爵家の使用人は取り乱していた。


唯一、平然としているのは鼻歌を歌いながら畑を耕すマリーぐらいだった。


「フンフン!」


楽しく歌いながら畑を耕し、少し休憩に果物を齧る。


「随分他の良そうだなお嬢さん」

「はい?」

「申し訳ないが、その果物を私にもくれないか?喉がガラガラでね」

見知らぬ中年の男性に声をかけられマリーは快く、リンゴを差し出す。

「む?美味いな」

「当然です!無農薬で作ったなんですから!」

「お嬢さんが作ったのかい?」

「はい」


艶やかなリンゴの中身は蜜が沢山でとっても甘かった。
普通のリンゴは酸味が強く、硬かったので齧るのも一苦労なのに不思議だと思った。


「お嬢さんは畑作りの名人だな」

「えへへ…叔母様にも言われました。私は豊穣の神様に愛されてるって」

「すごいことだぞ。作物を作るのは難しいからな…」

二人は初対面にも関わらず、意気投合しながら色々話続ける。


「ウィステリアは何度か大飢饉があってな…その都度辺境地に住む貴族達は苦労していたのだ」

「はい、知ってます。私も辺境地にいました」

「そうか…しかし、王が優先するのは地方ではなく王都なのだ。本当は地方にも目を向けたいのだが…叶わないのだ」


マリーは申し訳なさそうにする男性の肩を優しく叩く。


「それは仕方ないと思います」

「仕方ない?」

「だって、すべてを守るなんて無理です。それは我儘です」

「我儘か…」


この男性の事は良く解らないが、もしかしたら官僚だった人なのかもしれない。
それで過去の事を悔やんでいるのではないだろか?とも思った。


「私は陛下を知りません…でも、陛下一人しかいないのに、全部を一人で背負わせるのはおかしいです。第一無能な家臣が悪いと思います」

「中々言うな…」

「第一、王様はどっしり構えておけばいんです。専門的な事は臣下に任せて、ここぞと言う時に交渉してもらって、人の言葉に耳を貸せる柔軟性があればいいと思います」

「うむ…」


マリーはリリアンヌに耳がタコになる程聞かされた言葉だった。
上に立つ者は必ずしも優秀でなくてはならなうわけではない。

時には足りない物を補ってもらい、互いに支え合う事が必要だと聞かされていた。


「王様だって人なんですよ…神様じゃないんです」

「そいうだな…王も人だ」

「一人で背負ったら破裂してしまいます」

「破裂か…物騒だな」


言い回しがかなり物騒であると思うが、言っていることは真っ当で間違いではない。

男性はまだ幼いながらもしっかりした考えを持つマリーに好感度を持つのだが、ここいで問題は発生した。


「それにしてもおじさん。疲れた顔をしてますね」

「む?」

「私がリフレッシュさせてあげます!」


何時もの調子でマリーはお節介を焼いてしまったのだった。
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