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第三章栄華が終わる時
10.嫁としての覚悟
しおりを挟む全身が激痛を襲いながらも意識を保つモーギュストはしぶとかった。
「まぁ、なんてしぶといのかしら?」
「ぐっ…貴様」
「でも、好都合ですわ」
体は動かないが口が利けるのならば問題ないと言いながら書類を叩きつけた。
「こちらは、先日の土砂崩れにより遺族の方からの訴えです。裁判をするまでもありませんと伝えましたら、皆様はしかるべき裁きを与えて欲しいと申されましたの。もちろんあの寄生虫も同罪ですわ」
「アニー…」
「ですが、遺族の皆様はこうもう仰せになりましたわ。憎いのはお二人だけであってギルビット家の皆さんには良くしていただいた。特にジュード様には恩があると」
その言葉に一同は顔を上げた。
「被害になった方も、公で皆様をさらし者にする気はないそうです。罪を犯した当事者と、寄生虫の両親は許せませんが、関係ない皆様を責める気はないと」
「そんな…息子の罪は私達の罪だ」
「そうですわ。罪を償って…」
「勘違いなさらないでくださいませ。お二人は別の形で罪を償うべきですわ」
アントニアは厳し言葉を投げかける。
平民となって辺境地にて償いをすることだけで罪を償えるわけではない。
「ここでお二人が平民となってしまえば、ギルビット家は?領民の皆様はどうなりますか」
「それは…」
「ご自分の責任から逃げてはなりません。本当の償いとは何です?」
アントニアは追放の身になってはい終わりなんてさせる気はない。
モーギュストをこんな風に育ててしまった責任はこの両親にないとは言えないのだから。
「私もできる限りのことは致します。我が子爵家にて皆様をお迎えする準備を進めております」
「アントニア、いけないわ!」
「そんなことをしたら!」
アントニアの言葉に両親は絶句した。
罪人の身内を実家で匿えば、社交界でさらなる噂が流される。
万一にでもアントニアの実家にも火の粉を被ったらと思うと恐ろしくて仕方ない。
「私を甘く見ないでください。この程度の事で夫を捨てるような薄情な嫁だとお思いで?万一にでも夫が罪人となったとしても私も共にするつもりです。爵位が無くなったとして、財をすべて失ってもジュードだけは手放すことはありません…ジュードは私の全てなのです」
「アントニア…貴女!」
「結婚を御認めになった時に、お義母様は私におっしゃいましたわ。何があっても夫を支えると。その誓を破ることはありません。私は死が二人を別つ…いいえ、死んでも夫と離れることはありませんわ」
例え何があってもジュードの手を離すことはしない。
その思いは今も変わらない。
「アニー…許してくれ。私は…」
「貴方のように人が好過ぎる方は、騙されてしまいましてよ?私ぐらいの性格がキツイ女の方がちょうどよいのです」
「そうだな」
貴族としてはあまりにも優しすぎたジュードにはアントニアぐらいの気の強い妻がちょうどよかった。
「貴方は何も悪いことはしておりません。愚弟が罪を犯したことで責められましょうが」
「いや…私も兄として失格だった。甘すぎたんだ」
もっと厳しく兄として弟を叱りつけるべきだった。
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アーデルハイドのとの関係も下手に口出しをして関係が悪化するのを恐れていたから言えなかった。
言うべきことを言わなかった。
その結果、今回のような事態になったことを悔やみながらも、アントニアの思いを受け入れるのだった。
「アントニア、本当にありがとう」
「お義母様、お礼を言うのはまだ早いですわ」
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けれど、絶望しかない未来に明るい光が見えたのは確かだった。
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