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第三章栄華が終わる時
8.身勝手な男
しおりを挟むアントニアは婚約時代から、モーギュストが蔑んだ目を向けられていた。
中産階級だった事から、格下と馬鹿にしていた。
アントニオは平民の娘であるが、母親の教育方針で貴族に負けない教育を受け、身分こそ貴族ではないが資産家として成功を収めた成金だった。
一代で財を築きあげ、慈善活動を活発にした功績により王から直々に爵位を与えられた。
新貴族の中では爵位を買ったり、平民でも国に貢献することで爵位を与えられることはある。
そのおかげで、アントニアの父はこれまで以上に国に貢献すべく商売をするようになった。
アントニアは宮廷貴族の令嬢に勝るとも劣らない教養と気品を身に着けていたことから新貴族代表として迎えられ、サロンでもその優秀さを見せつけていた。
とは言え、元は平民で成り上がりを嫌う大貴族の旧貴族から嫌われていた。
特に男尊女卑こそが正しいと思う前時代的な考えを持つ貴族からはあからさま嫌がらせや悪い噂を流されていた。
モーギュストもアントニアを毛嫌いして、賊民と呼ぶこともあったのだが。
アーデルハイドはアントニアを姉として慕い、戦友として手を取り合っていた。
今の腐敗しきった貴族社会を変えたいと、二人、星を眺め夜を明かしながら語り合ったこともある。
アントニアにとってアーデルハイドは可愛い妹であり、敬うべき存在でもあった。
高位貴族でありながら柔軟な考えを持ち、国を思う心ある貴族だった。
故に、今回の出来事は安易に許せることではなかった。
「近づかないでくださる?汚らわしい」
「なっ!」
扇をパチンと締めながら見下す視線に怒りを込めて睨む。
「今さら都合がいいですわね?私は兄君を誘惑した娼婦だと散々おっしゃったのはどなた?賊民の分際で身の程を弁えろ?家族など認めないともおっしゃいましたわね?精々私は金ズルでしかないともおっしゃいましたわね」
「なっ…アニーにそんなことを言ったのか!」
「あっ…いえ」
普段大人しく温厚なジュードは怒りを露わにしてモーギュストの胸倉を掴んだ。
「誰のおかげで学園に通えたと思っている。誰のおかげで貴族の暮らしが続けられたと思っている!アニーが我が家の借金を肩代わりし、傾いた我が家をアーデルハイド嬢が立て直してくださったからだ!貴様という奴は!」
「は?」
「我が家は先々代の浪費と、領地の災害で領民が飢えに苦しんでいた時期があった。その時に手を差し伸べてくださったのがアーデルハイド嬢の母君のナンシー様だ」
「えっ…は?」
「我がギルビット家はナンシー様とアーデルハイド嬢に返しきれない御恩があった。なのに貴様という奴は」
父が怒鳴り声を上げながら睨みつけた。
「貴様は、何処まで我が家に泥を塗れば気が済むのだ。恩をあだで返した一族として我らは笑いものだ。あげく兄の人生を潰し、詫びの言葉もないとは!」
「ひぃ!」
「もはや貴様等、息子ではない。親として共に罪を背負うつもりでいたが…この場で親子の縁を切ってくれる。好きにするがいい」
胸倉を掴み突き飛ばされた壁に背中をぶつけてしまった。
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