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第二章南の島開拓
20.生き埋め
しおりを挟むその日、風向きが少し違うのを感じた。
「ハイジちゃん?どうしたんだい?」
「いえ、何か聞こえた気がして」
結婚前日に、山でキノコを採りに来ていたアーデルハイドは何か聞こえた気がした。
「まったく明日は結婚式だってのに」
「島の皆さんに美味しいものを沢山食べていただきたいんです」
「そうかい」
アーデルハイドらしいと言えばらしいのだが、普通ならば髪を美しくゆったり体を磨いたりするのに対して、当日の結婚式にて招待する島の住人にごちそうを用意するべく食材を探していた。
「自分で探した方がいいですし…あまり高価だと気を使わせますので」
「アンタって子は」
作物が豊かであるが、決して裕福ではない。
ジャンは男爵であるのでそれなりに裕福であるが、お金を使わず喜んでいほしいと思ったアーデルハイドの気遣いにステラは怒る気がしない。
「まったく、馬鹿だね?あんたを捨てた屑男は」
「もう忘れましたわ」
「フッ、後で後悔して泣いて悔やめばいいんだよ。でも、許してくれないだろうよ」
ステラの視線の先には護衛としてついて来てくれた牧羊熊がいる。
「ねぇ?チー」
「ガウ!」
当然だと言わんばかりに鳴き声を上げる。
「万一、島に踏み入れてたとしてだ」
「考えたくありません」
「まぁ、聞きなよ。その馬鹿が島に来てもチーが許さないだろうね」
魔熊は肉食獣とも言われてれているが、雄は雌を守り、尚且つ我が子を守るためならば己の命すら惜しまない性格だった。
それだけ仲間意識が強いので、育ての親と認識しているアーデルハイドを傷つけた男が侵入しようとも血祭りに上げられるのは確実だ。
何より、この島の住民はアーデルハイドを可愛がっている故に。
「この島には元軍人の妻もいるからね…万一強硬手段に出ても温室育ちのボンボンに負けないさ」
「頼りにしております」
「ああ、安心しな!」
バシッと強くステラに笑みを浮かべる中…
「ハイジちゃん?」
風と一緒に何か聞こえた。
「やっぱり何か聞こえます」
「え?」
耳を澄ませると――。
「…け…て」
消えそうな程小さな声が地面から聞こえた。
「下からだわ」
「え?この下かい?」
「ちいちゃん!地面を掘って!」
「ガウ!」
モグラ顔負けで地面を掘っていくと人が生き埋めになっていた。
「これは!」
「大変!ちいちゃん、もっと深く掘って!」
「ウー!!」
数名の人が気を失い、中には瀕死の状態の人もいて、二人は急いで救助をした。
その後、近くの川で魚を釣っているであろうフレディー達にも声をかけて、急いで邸に戻るのだった。
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