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第二章南の島開拓
15.王弟殿下の胃痛
しおりを挟むイングリット王国に視察に来ていたシャルルは気の休まる時がなかった。
「殿下、手紙が来ております」
「くっ…またか!」
視察という名目で隣国のイングリット王国に来ていたが、その目的は外交をするためではないので、内心穏やかでいられるはずもない。
「義姉上からの手紙を読むのが怖い」
「早く手紙を読まないと、手紙を運んできた地獄鳥達が獲物を見る目で睨んでいますよ。喰われたいのですか」
「恐ろしいことを言うな!くっ…」
早く手紙を読めと催促している全身真っ黒な鳥は地獄鳥と呼ばれている魔鳥だった。
普段は大人しいがふとした時に肉食動物のように獲物に貪るので恐ろしい。
現にシャルルは義姉の使い魔に酷い目にあわされたことは少なくない。
「ぐはっ!」
「殿下?殿下ぁぁぁぁ!」
「どうなされたのです!」
手紙を読んで数秒で、シャルルは口から血を吐いた。
手紙には今後の計画が事細かに記されており、遠回しに侯爵家を地獄に叩き落し、今回の茶番劇に関わった貴族を血祭りに上げる準備をしろとのことだった。
綿密に組まれた計画が記されている時点で決定事項だったが…
「義姉上!貴女は他国の王侯貴族、半分を潰す気ですか!」
「まぁ、王妃陛下ならばやりかねませんな」
「呑気な事を言うな!馬鹿者!」
外交官としても優秀な王妃は国同士が戦争をするような真似をしないが、イングリット王国の問題に口を挟むのはどうかと思った。
表ざたになっていない悪徳貴族を一掃することは、恨みを買ってしまうことになるのだから不安は拭えない。
「王妃陛下の事です。確実な方法で仕留めるでしょうな」
「あっさり言うな…その後始末は誰がするんだ!私か?私がするのか!」
これまで多くの改革をしてきた王妃であるが、その補佐として使いパシリのような真似をして来たシャルルは胃が痛くて仕方なかった。
「仕方ありませんね…我が国であの方に逆らえる者がおりましょうか?嫁がれてすぐに暗殺者を差し向けられるも撃退するようなお方です」
「言うな、想像するだけで頭が痛い。とりあえず計画を実行するか」
「こうなるとイングリット王家が哀れに思えますな。王妃陛下に目を付けられたのだから」
正確に言えば、王家と言っても、くだらない茶番劇に介入した親族だけだが。
シャルルは彼らが余りにも哀れに思えた。
「普通に没落した方がどれだけ幸せか、義姉上に目を付けられるとは地獄だぞ」
「同情はしないですが哀れですね」
シャルルと侍従はその標的となる貴族達が待っているであろう、破滅の道を心の底から哀れに思った。
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