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第二章南の島開拓
14.影の支配者
しおりを挟むカルフェオン王国は長い歴史の中で戦争が最も少ない国だった。
平和を保つことはとても難しく、小さな国は大国と従国になり守ってもらわななくてはならないが、そういった場合は支配を受ける状態で平和が何時崩れるか解らない。
そんなこともあってか、カルフェオン王国は同盟や友好国とは常に対等な関係を築きあげて来た。
その裏で王妃は外交官として優れていた。
いかに国を安定させるかの手腕は、王妃の振る舞いによって変わって来るし。
外交を行いながら他国との関係の調和を図ることで、これまで国を安定してきた。
その為には何事もスピーディーに動いていた。
「黒幕を早々に炙り出す必要がありますわ」
不敵に微笑み王妃の表情に大臣は寒気がした。
普段は聖母のように穏やかで美しいとされるが、この国の陰の支配者と恐れられているのだから、怒らせると一番恐ろしかった。
「調べによると隣国では正式な調査と裁判を執り行うことになっているようですわね…生ぬるいですわ」
「しかし、通常は調査を行った後に裁判を行うのが普通でして」
大臣は汗を流しながら王妃を宥めようとする。
「ええ、存じておりますわ。その場合被告人は謹慎処分をするのが通常ですが…あの馬鹿達は普通に生活しているそうですわね?正直胸糞悪いのです」
「母上、国母がそのような乱暴なお言葉を」
「あら、つい」
ごまかすように笑う王妃に一同は気が休まらない。
現役時代は戦女神と呼ばれた程に優れている王妃を怒らせたらどうなるか解りきっていたので、なんとか宥めたいのが本音だが…
「私の義娘に手を出してくださったのですから、穏やかに老後生活なんて許しませんわ」
「うむ…」
「王妃陛下!笑顔が…笑顔が怖いです」
「お黙りなさいリッチモンド」
「はい…」
外務大臣ことリッチモンド・ケイルは押し黙る。
小言を言ったとしても最終的にカルフェオン王国の王妃、ケニスワールに意見できるものはいない。
「ですが、イングリット王国の両陛下は性根がまっすぐな方であることは知っておりましてよ?ですからシャルルに手紙を渡しております…内々に此度のことをお伝えしております」
「うむ、あちらの王妃陛下は不義を許されない方だからな」
何度か顔を合わせて言葉を交わしたことがあるが、今回の事件を許すような人間とは到底思えない。
「両陛下と宰相が留守の時間を見計らって執り行うなんて、用意周到ですわ。とてもではありませんが…馬鹿達だけでは不可能です」
「まぁ、噂を吹聴して、姉を悪者に仕立て上げるだけの悪知恵には恐れ入るが」
調査した報告書を再度読み上げながらラインハルトはアイシャの行動は大胆過ぎると思ったが、かなりずる賢い女だとも思った。
同時に自分の好意を持つ男性を利用し、悲劇のお姫様を演じてアーデルハイドを悪役に仕立て上げたのだ。
「しかし、甘いですね」
「ええ、本当に愚かだこと。跡継ぎの姉がいなくなった時点でどうなるか見当もつかないとは」
既にレイジは隠居した身であるが、前当主として侯爵家の爵位を返上することは可能だった。
「甘い汁を啜って生きていたことを後悔させてあげなくてはね?世間の厳しさを十分お教えすべきですわ」
パチンと扇を鳴らしながら立ち上がる王妃の横顔はとても恐ろしく大臣達は怯えさせていた。
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