29 / 111
第二章南の島開拓
6.異変
しおりを挟む結婚式の準備は着実に進んだ。
元髪結師でもあるステラに髪を毎日結ってもらうようになった。
「ハイジ、最近お洒落だな」
「ステラさんが、毎日ヘアアレンジをしてくださって」
緩い編み込みをしてもらい、清楚感がありながらも可愛らしい髪形だった。
「それに髪が光っているな…」
「リンスを使ったの。髪の毛を洗った後に潤いを出すの…この島のオリーブを使ったのよ」
「オリーブに、そんな使い道があるのか」
前世の記憶を余すことなく使ったが、この世界では髪を洗うのは石鹸で行い、艶出しに油を使ったり小麦粉で髪を整えたりするが、神の汚れをちゃんと落とすことはしていない。
なので髪に艶があるというよりも脂ぎっているのだった。
「毎日シャンプーして、その後に潤いを与えているから」
「花の香りがするな」
「成分に少し花を使ったんです」
香水をつけなくともいい香りがするので、他人にも不快感を与えることもない。
「石鹸は高価だが、代用品にトカの実を使っているからな」
「その成分は洗浄力があるけど、余計な油分も取ってしまうから、手がかさつくのよ。だから後で油をつけてるんです」
下級貴族では知らない知恵だが、寒い季節に薬草を肌に塗って保湿する方法を使っている貴族もいる。
「ハイジは物知りだな。そういえば牛の牧場を営んでいる奥さんが、手がカサカサして困っていたな」
「大変だわ、じゃあ…クリームを用意して持っていきましょう」
試作段階であるが作った物がある。
特には農業をするので手が荒れるから必要だった。
「冬になったら余計に乾燥するわ」
「ハイジ」
「どうしたの?」
フレディーは窓を閉め、表情を険しくする。
「静かに…侵入者だ」
「侵入者?」
フレディーは腕をかざすと手の甲に紋章が浮かぶ。
「この国の王族は魔力を体の中に封印している。緊急時以外は使わないようにするためだ」
「え?」
「だが、魔力を封じても結界を敷いたりすることもできるし、結界の中に侵入者が入れば解るんだ」
手の甲の紋章が揺らいでいるのは見える。
「この魔力は、かなり強い魔力だな…転移魔法を使っている」
「転移魔法…」
「しかもかなり強引な…島の中に入れたことは加護を受けているのか?」
フレディーは窓からそっと様子を伺おうとした時だった。
「ガァァァァ!!」
「ちいちゃん!」
「しまった、チーが庭で昼寝をして…」
ドォォォン!!
「わぁ!」
「ハイジ!」
床が揺れ、倒れそうになる。
「討ち取ったりー!!」
「「は?」」」
窓が開き、中を見るととんでもない光景が広がった。
巨大な魔熊のちいはひっくりかえされて、その傍には小柄な少女が腕を組んでふんぞり返っていた。
74
お気に入りに追加
5,504
あなたにおすすめの小説
妹ばかり見ている婚約者はもういりません
水谷繭
恋愛
子爵令嬢のジュスティーナは、裕福な伯爵家の令息ルドヴィクの婚約者。しかし、ルドヴィクはいつもジュスティーナではなく、彼女の妹のフェリーチェに会いに来る。
自分に対する態度とは全く違う優しい態度でフェリーチェに接するルドヴィクを見て傷つくジュスティーナだが、自分は妹のように愛らしくないし、魔法の能力も中途半端だからと諦めていた。
そんなある日、ルドヴィクが妹に婚約者の証の契約石に見立てた石を渡し、「君の方が婚約者だったらよかったのに」と言っているのを聞いてしまう。
さらに婚約解消が出来ないのは自分が嫌がっているせいだという嘘まで吐かれ、我慢の限界が来たジュスティーナは、ルドヴィクとの婚約を破棄することを決意するが……。
◆エールありがとうございます!
◇表紙画像はGirly Drop様からお借りしました💐
◆なろうにも載せ始めました
◇いいね押してくれた方ありがとうございます!
もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」
婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。
もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。
……え? いまさら何ですか? 殿下。
そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね?
もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。
だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。
これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。
※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。
他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)

婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!
志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。
親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。
本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。

婚約破棄の翌日に謝罪されるも、再び婚約する気はありません
黒木 楓
恋愛
子爵令嬢パトリシアは、カルスに婚約破棄を言い渡されていた。
激務だった私は婚約破棄になったことに内心喜びながら、家に帰っていた。
婚約破棄はカルスとカルスの家族だけで決めたらしく、他の人は何も知らない。
婚約破棄したことを報告すると大騒ぎになり、私の協力によって領地が繁栄していたことをカルスは知る。
翌日――カルスは謝罪して再び婚約して欲しいと頼み込んでくるけど、婚約する気はありません。

ヴェルセット公爵家令嬢クラリッサはどこへ消えた?
ルーシャオ
恋愛
完璧な令嬢であれとヴェルセット公爵家令嬢クラリッサは期待を一身に受けて育ったが、婚約相手のイアムス王国デルバート王子はそんなクラリッサを嫌っていた。挙げ句の果てに、隣国の皇女を巻き込んで婚約破棄事件まで起こしてしまう。長年の王子からの嫌がらせに、ついにクラリッサは心が折れて行方不明に——そして約十二年後、王城の古井戸でその白骨遺体が発見されたのだった。
一方、隣国の法医学者エルネスト・クロードはロロベスキ侯爵夫人ことマダム・マーガリーの要請でイアムス王国にやってきて、白骨死体のスケッチを見てクラリッサではないと看破する。クラリッサは行方不明になって、どこへ消えた? 今はどこにいる? 本当に死んだのか? イアムス王国の人々が彼女を惜しみ、探そうとしている中、クロードは情報収集を進めていくうちに重要参考人たちと話をして——?

不憫な妹が可哀想だからと婚約破棄されましたが、私のことは可哀想だと思われなかったのですか?
木山楽斗
恋愛
子爵令嬢であるイルリアは、婚約者から婚約破棄された。
彼は、イルリアの妹が婚約破棄されたことに対してひどく心を痛めており、そんな彼女を救いたいと言っているのだ。
混乱するイルリアだったが、婚約者は妹と仲良くしている。
そんな二人に押し切られて、イルリアは引き下がらざるを得なかった。
当然イルリアは、婚約者と妹に対して腹を立てていた。
そんな彼女に声をかけてきたのは、公爵令息であるマグナードだった。
彼の助力を得ながら、イルリアは婚約者と妹に対する抗議を始めるのだった。
※誤字脱字などの報告、本当にありがとうございます。いつも助かっています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる