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第二章南の島開拓
5.苦労人の王弟殿下
しおりを挟む翌日、火急で手紙が届いた。
「まぁ、フレデリックからよ」
「本当ですか、母上」
部屋ではお茶をしながらカルフェオン国の王太子殿下こと、ラインハルトと王妃は手紙を見て安堵した。
「流石、フレデリック。上手くやったな」
「あの子は優秀ですもの。これで一安心だわ」
どうなるかは解らなかったので安堵したのだが、その傍では…
「ああ、なんてことだ。まさか隣国の侯爵令嬢だったとは…頭が痛い」
「まだ言ってますの?元ですわ。今は平民です」
「だから問題なのです」
ソファーでぐったりするシャルルは、先程すべての証言と証拠を集めてアーデルハイドが隣国の侯爵令嬢であることが解った。
最初は半信半疑だったが、信頼できる部下に調べさせたので情報は確実だった。
「それにしても、酷い婚約者ね」
「まったくです。男の風上にも置けませんね」
カルフェオン国では騎士道を大事にする男性が多く、女性に暴力を振る男は最低だと思われている。
冤罪になり国外追放されたことだけでも許しがたいのに、追放される前に髪を切る行為は許されない。
「きっと、貴族社会にうんざりしているのでしょうね」
「でしょうね…私は義妹になる彼女を無理矢理貴族社会に戻すような真似はしたくありません。島で静かに暮らしたいならいいと思ってます」
「ラインハルト」
「そして時々、顔を見せて貰えれば幸いです」
優しい兄に成長した息子を心から喜ぶ王妃なのだが。
「でも、愛する息子の大切な方を痛めつけたのだから…お仕置きしてもいいのではなくて?」
「義姉上!」
「だまりなさいシャルル。私は力でねじ伏せて暴力を振る男が大嫌いですの。聞けばアーデルハイド嬢は騎士に抑え込まれ、公の場で髪をバッサリ切られたようですね?」
「はっ…はい、ドレスをはぎ取られたと」
「まぁ!」
女性の矜持をズタズタにした行為は許せるものではない。
「私、女だからって馬鹿にされるのが嫌いですの」
「存じております」
「しかも愛する息子の妻となる方ですわ」
誰よりも家族への愛情が深い国王と王妃だからこそ、許せなかった。
「隣国に使者を送りなさい。少しばかり嫌がらせをしますわ」
「お待ちください!そんなことをすれば…」
国同士の争いをするのかと訴えるが、不敵な笑みを浮かべる。
「別に戦争なんてしませんわ。イングリット王国は友好国ではありませんのよ…ただ、お付き合いを考えさせていただきたいだけです」
「それが問題なんです」
「あら?万一同盟を結んだとしても‥そんな野蛮な男性がいる国と手を組むなんて恐ろしくてよ?」
言っていることは真っ当だが、やり方がある。
同盟国ではないにしろ、下手に刺激して戦争になったらどうするのか。
「我が国は、他国と違い農村地が広く、作物に恵まれています」
「はっ…はい」
「その為、文明が遅れた領地も多いですけど…背後には私の故郷がついています。軍人国家の大帝国がね?」
背後に歴史ある軍人国家がついていれば簡単に戦争なんてできるはずもないが、できるだけ穏やかに過ごしたいシャルルは胃が痛かった。
「少しばかり意地悪をするだけですわ。例えは貿易を止めて食料の輸入を見直すとか」
「義姉上!」
「野蛮な騎士が多いので視察に行くのを控えるとか」
「お願いですから…どうか」
何処まで本気で何処まで本気か解ったモノではない。
この王妃は慈愛に満ちた女神のような優し気な表情をしながらも罪人や悪人には一切の容赦がない。
やると言ったらやるので、安心できなかった。
結果として、直ぐに隣国と事を起こすのは阻止して、とりあえずは結婚式を急ぐことで事なきをえるのだった。
「そうね、結婚式を終えてからじっくり嫌がらせをしましょう」
しかし、王妃は諦めたわけではなかった。
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