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第一章国外追放
22.色気のない求婚
しおりを挟む目の前に広がる品に目を輝かせる。
煌びやかな宝石でも、美しいドレスでもない。
あるのは――。
「野菜の苗だ!フレディー愛してる!!」
前世でも馴染みのある野菜の苗の数々。
「普通は、宝石とか、ドレスの方が喜ばれるのに…後はスコップに鍬かい?」
「それも使いやすそうな品。素敵!」
大量生産ではなく、職人が作った名品の数々だった。
「そんなに嬉しいか?」
「最高よフレディー…結婚して欲しいぐらい」
あまりの嬉しさに感動するアーデルハイドはとんでもないことを口走っている。
「じゃあ、俺と結婚しよう」
「え?」
「ハイジ、君を愛している。一緒に畑を耕し、家畜を育てながら暮らそう」
膝をつきながらリボンで結ばれたスコップを差し出す。
「なんて色気が無いんだ!普通は薔薇の花束だろ」
「花束はここにある」
「野菜の苗だろうが!」
世界一色気のない求婚にステラは絶句した。
「ちなみに君に似合う服を用意した」
「麦わら帽子にタオルと長靴に…つなぎ!ダサい…ダサすぎるよ」
「これを着て農民になろう。世界一幸せな百姓になろう」
「アンタ、いい加減にしな!そんな愛の告白があるか!」
あまりにも色気もロマンも夢もあったものではない。
「百姓?」
「そうだ、自分達で畑を耕し、家畜を育てるんだ。お金はなくとも作物があれば食べていける。そして島で長生きしよう」
「いや、いくらなんでもね…」
こんな求婚を喜ぶはずはない。
老いた独身女性でも流石にないだろうと思ったステラだったが。
「はい、嬉しいです」
「受けるんか!」
ここに一名、物好きがいた。
「素敵だわ。米や野菜を自分達で作って、ご近所さんと仲良く暮らして長生きをするなんて」
「ああ、俺達ならできるぞ。この島で末永く暮らして行こう。そして子供を沢山作って孫に囲まれた生活を送るんだ」
「夢のようだわ。フレディー…私も貴方が好きよ」
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突っ込む気にもなれない。
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なのに、あえて平民として生きる道を選ぶ物好きは探してもいないだろう。
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「私も隠していることが沢山あるの」
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