21 / 111
第一章国外追放
20.家族会議
しおりを挟む広間にいるのは、身内とはいっても過言ではない。
敵対する派閥もおらず、腹を割って話しても問題ない者ばかりだった。
「それで、その人は…」
「元貴族で島流しになった令嬢だ」
「「「は?」」」
島流しと言われて全員絶句した。
「犯罪者か!」
「殿下、誘惑されたんですか?」
冷や汗を流す大臣達。
幼少期から、優秀だったのフレデリックが何故?とも思ったが。
「違う、ハイジは犯罪者じゃない。ステラの話いわく…ハイジは冤罪で島流しにされた可能性が高い」
「何?ポーレット夫人が?」
「確かに流罪になった者の中には、罪をでっちあげられた者も少なくありません」
ステラの名前を出せば、大半は信用した。
何故なら、ステラはかつて宮廷一の女性文官として一目置かれた人物でもある。
宮廷を出た後は島に留まり、監視役を命じられている。
「俺も、彼女と行動を共にしたが‥島の住民の心を掴み。尚且つ稼いだ金のほとんど農家に寄付する程だ」
「うむ…」
「ジャンも彼女を認めている」
「何だと…男爵が」
元宮廷料理長を務め、王の腹心の部下でもある人物だった。
「彼女は人を傷つけることが出来ない人だ…少し変わっているが。きっと仕組まれたんだ」
「何という事を」
「なのに何時も笑っている」
本当は、国から出て幸せなのだが、彼等は誤解をした。
祖国を追い出されて辺境地で苦労して、必死に馴染もうとする健気な少女だと勘違いする。
「彼女は島に永住したいって言っているんだ。それで…手っ取り早く島の男と結婚することを考えていて」
「なんというか…」
「かなり逞しいですわね」
うんうんと頷く国王と王妃。
「それで、フレデリックはどうしたい?」
「ハイジと夫婦になって普通の家庭が欲しい。あの島は俺にとって故郷でもあるんだ」
普段はそつなく何でもこなしているが、渡り鳥になるのは疲れる。
帰る場所が欲しいと思っても、口に出せなかった。
「俺の仕事はする。だけど…最後の我儘を許してください」
「馬鹿を言うな。これからも我儘を言え…今まで私の代わりに損な役目を任せたんだ。追放された女性?その程度何だと言うんだ」
「兄上…」
「お前が人間の女性と結婚したいなんて言うなんてこの先ない。ならば私は応援する」
本心だった。
この先、フレデリックが結婚したいなんて言う可能性は低い。
ならば、このチャンスを逃してはダメだと思った。
「でも、彼女は地位も名声も興味が無いんだ。島で自由にのんびり過ごしたいらしい」
「ほぉ?いいではないか」
「陛下…」
国王は下手に野心のある令嬢や王女を迎えるよりも良いと思った。
どの道、フレデリックは爵位を貰えたとしても、良くて伯爵の地位を与えられる程度だったので利用されては困る。
地位に興味ない方が喜ばしいのだった。
「例え王族でなくなろうとも、貴方は私の大事な息子です。孫を抱かせないなんて言わないでちょうだい」
「母上」
「くっ…フレデリック。すまん…私が不甲斐ないばかりに」
「叔父上」
長らく苦労が多かったフレデリックに人並みの幸福があってもいいのではないか?
平民になって普通に家庭を作り幸せになってもいいのではと思っている。
「その女性はカリスマ性があるのか」
「はい、領地経営の才能も申し分ないのですが、かなり変わっていまして」
「放蕩息子の嫁にはそれぐらいがいい」
「陛下、貴方の息子ですぞ」
大臣達が突込みを入れるも、大らかすぎる国王なので言っても無意味だった。
「彼女はとにかく食べることが好きで。金目の物は家畜にしてますね」
「ふむ、作物は大事だからな」
「ああ、天はどうしてこのような試練を」
大臣は立ちくらみがする。
天は二つの物を与えてないのは事実なのかと嘆く。
第二王子は優秀なのに王になる器ではない。
伴侶となるかもしれない女性も領地経営に優れ、カリスマ性もあるのに貴族としての生活に興味がないとくれば嘆きたくなる。
しかし、ある意味、最高の取り合わせだった。
王太子と後に王太子妃となる女性を影から支えて貰えるかもしれない。
尚且つ平民達が暴動を起こさないように説き伏せる役目を担える。
これも政治の一つだった。
「そうと決まれば、頑張るのだ!その女性を惚れさせろ」
「いいですか、無理強いは許しませんよ」
「その前に、その少女の素性をもう少し調べよう。万一不当な扱いを受けているなら、国に文句を言うべきだ」
可愛い甥の想い人だ。
できるだけのことをしてやりたいと思う王弟殿下は詳しく調べようと思った。
「ハイジというのか」
「アーデルハイドが本名です」
「ふむ、アーデルハイドというのか」
王弟殿下は名前を刻みこもうとしたが、ふと思い出す。
「フレデリックよ…聞いてよいか?その少女の容姿と、何処の国から追放されたか」
「えっと…」
嫌な予感がした。
王弟殿下は外交官として他国に向かうことがある。
アーデルハイドという名前の令嬢に聞き覚えがあった。
「確か、隣国のイングリッド王国だと聞いたが」
「ゲフン!」
「え?殿下…殿下ぁぁぁぁ!」
王弟殿下こと、シャルルは苦労人だった。
そして今も、放蕩な甥っ子に悩まされ失神した。
87
お気に入りに追加
5,504
あなたにおすすめの小説
妹ばかり見ている婚約者はもういりません
水谷繭
恋愛
子爵令嬢のジュスティーナは、裕福な伯爵家の令息ルドヴィクの婚約者。しかし、ルドヴィクはいつもジュスティーナではなく、彼女の妹のフェリーチェに会いに来る。
自分に対する態度とは全く違う優しい態度でフェリーチェに接するルドヴィクを見て傷つくジュスティーナだが、自分は妹のように愛らしくないし、魔法の能力も中途半端だからと諦めていた。
そんなある日、ルドヴィクが妹に婚約者の証の契約石に見立てた石を渡し、「君の方が婚約者だったらよかったのに」と言っているのを聞いてしまう。
さらに婚約解消が出来ないのは自分が嫌がっているせいだという嘘まで吐かれ、我慢の限界が来たジュスティーナは、ルドヴィクとの婚約を破棄することを決意するが……。
◆エールありがとうございます!
◇表紙画像はGirly Drop様からお借りしました💐
◆なろうにも載せ始めました
◇いいね押してくれた方ありがとうございます!
もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」
婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。
もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。
……え? いまさら何ですか? 殿下。
そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね?
もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。
だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。
これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。
※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。
他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)

婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!
志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。
親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。
本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。

【完結】白い結婚なのでさっさとこの家から出ていきます~私の人生本番は離婚から。しっかり稼ぎたいと思います~
Na20
恋愛
ヴァイオレットは十歳の時に両親を事故で亡くしたショックで前世を思い出した。次期マクスター伯爵であったヴァイオレットだが、まだ十歳ということで父の弟である叔父がヴァイオレットが十八歳になるまでの代理として爵位を継ぐことになる。しかし叔父はヴァイオレットが十七歳の時に縁談を取り付け家から追い出してしまう。その縁談の相手は平民の恋人がいる侯爵家の嫡男だった。
「俺はお前を愛することはない!」
初夜にそう宣言した旦那様にヴァイオレットは思った。
(この家も長くはもたないわね)
貴族同士の結婚は簡単には離婚することができない。だけど離婚できる方法はもちろんある。それが三年の白い結婚だ。
ヴァイオレットは結婚初日に白い結婚でさっさと離婚し、この家から出ていくと決めたのだった。
6話と7話の間が抜けてしまいました…
7*として投稿しましたのでよろしければご覧ください!

婚約破棄の翌日に謝罪されるも、再び婚約する気はありません
黒木 楓
恋愛
子爵令嬢パトリシアは、カルスに婚約破棄を言い渡されていた。
激務だった私は婚約破棄になったことに内心喜びながら、家に帰っていた。
婚約破棄はカルスとカルスの家族だけで決めたらしく、他の人は何も知らない。
婚約破棄したことを報告すると大騒ぎになり、私の協力によって領地が繁栄していたことをカルスは知る。
翌日――カルスは謝罪して再び婚約して欲しいと頼み込んでくるけど、婚約する気はありません。

ヴェルセット公爵家令嬢クラリッサはどこへ消えた?
ルーシャオ
恋愛
完璧な令嬢であれとヴェルセット公爵家令嬢クラリッサは期待を一身に受けて育ったが、婚約相手のイアムス王国デルバート王子はそんなクラリッサを嫌っていた。挙げ句の果てに、隣国の皇女を巻き込んで婚約破棄事件まで起こしてしまう。長年の王子からの嫌がらせに、ついにクラリッサは心が折れて行方不明に——そして約十二年後、王城の古井戸でその白骨遺体が発見されたのだった。
一方、隣国の法医学者エルネスト・クロードはロロベスキ侯爵夫人ことマダム・マーガリーの要請でイアムス王国にやってきて、白骨死体のスケッチを見てクラリッサではないと看破する。クラリッサは行方不明になって、どこへ消えた? 今はどこにいる? 本当に死んだのか? イアムス王国の人々が彼女を惜しみ、探そうとしている中、クロードは情報収集を進めていくうちに重要参考人たちと話をして——?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる