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第一章国外追放

9.恋愛観

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大収穫を得て、邸には沢山の食料を調達できた。


「フルーツに野菜に、お米と苗ももらったし。何より梅干し…愛しの梅干しちゃん」

壺に頬を摺り寄せる。
ずっと宮廷料理を食べていたが、質素な和食が恋しかった。


視察や、領地経営の為に遠出する時は郷土料理を食べることはできたが、両親や妹は庶民が口にする物は汚らわしいとかで、隠れて食べるぐらいだった。


「私、高級な料理よりも庶民的な屋台で売っている焼き鳥とか、おでんが好きなんだよね」

手間暇かからない食事は野蛮だと言うが、それは知らない人間が言っているだけだ。


「海岸のバーベキューは最高だったし、郷土料理も最高なんだから」

知らないとは可哀想な事だった。
世の中には美味しいモノで溢れているのに、食わず嫌いなんてとんでもない。

「その内、鶏を飼って…鶏鍋をしたり」

想像するだけで涎が流れそうだった。


「いや、牛を飼ってしぼりたての牛乳を毎日…羊や山羊を飼ってジンギスカン。豚でトンカツも」

想像するだけでお腹が好きそうだった。


「君は食べる事しか頭にないのか?」

「あら?フレディー」

「まったく不用心だな」


鍵が開いていたので勝手に上がるフレディーはテーブルの上に子豚を置く。


「農家で貰ったんだがおすそ分けだ」

「フレディー!愛してるわ」

「そっ、そうか」

肉が欲しかったので絶妙なタイミングで豚肉を手に入れらえて満面の笑みを浮かべる。

「農家の皆が、明日も働きに来て欲しいらしいぞ」

「本当?やったわ」

日雇いの仕事を探していたので助かった。

「食事も用意するらしいが…今日出たものと同じものしかないが」

「なんて素晴らしいのかしら。毎日、あんなごちそうが食べられるのね!」


普通は質素で代わり映えのしないおにぎりと漬物だけで嫌がられるのだが、アーデルハイドは両手を上げて喜ぶ。

「三食あれでいいぐらい」

「可哀想に‥余程酷い生活をさせられたんだな」

「は?」

ポロリと涙を流すフレディーに首をかしげる。


「いや、気にしなくていいぞ。皆、君の事が気に入っているからな」

「だと嬉しいわ」


アーデルハイドはこの地に住む人は本当に親切で気持ちの良い人達だと思った

追放されて良かったと心から思う。


「ずっとここにいたいわ」

「いたらいい。ずっとここで暮らせばいいんだ」

「本当に?」


島が無しになった人間はある程度の帰還が過ぎれば罪を償ったと判断されるのだが、アーデルハイドは帰りたくない。


「永住ってできるのかしら?」

「手続きを取ればできるぞ?後は結婚とか?」

「あー…なるほど」


この島で結婚して永住するのが手っ取り早いが、どうにも前向きになれない。

「結婚か」

「何だ?嫌そうな表情だな」

「いえ、婚約者に捨てられたばっかりだから…ちょっと」

ピクっと眉が動くフレディー。

お腹がムカムカした。


「婚約者がいたのか」

「ええ、親が決めた人で…でも、手を握ったことすらありませんけど」

「は?」

婚約者なのにありえないと思ったが、アーデルハイドは過去を思い出しながら眉をしかめる。

「何時も私を呼ぶのはおいとかだったし…嫌われてましたし」

「何だ、失礼だな」

「まぁ、人には好みがありますし。彼は妹と婚約したかったと言ってましたし」


「なっ!」

ありえないと思った。
親同士で決めた婚約はある意味義務のようなもので子供は逆らえない。

例え、他に好きな女性が出来たとしても婚約している女性にそんなことを言う時点で屑だと思った。


第一、アーデルハイドだって好きで婚約したわけではないのに、相手側が被害者のように思うのはあまりにも理不尽だった。


「ハイジはその男を愛していた…」

「ぶぇっくしょい!」


フレディーが聞こうとするも親父臭いくしゃみをする。


「…なかったんだな」

「はい」


余程その婚約者が嫌いなのか、拒絶反応がすごかった。


「私、初恋は祖父でしたので」

「随分年上が好みだったんだな」

「ええ、祖父は優しくて素敵だったんです。なのに婚約者は残念な方でしたが…我慢したわ」


最初からモーギュストに愛情の一欠けらも抱いてなかった。
出会いからして横暴で、礼儀もなく何様なのかと思う様な相手だった。

対して王族である王太子殿下や他の王族は古風な考えを持ちながらも好感度が高かった。

大人しくしていたのは王族への配慮だけだった。


「まぁ、終わった話しですけど」

「悲しくないのか?」

「そうですね。心残りと言えば、最後に一発ぐらいそこを蹴りたかったですわ」


「そっ…そうか」


婚約者に未練が無いのは安心したが、心中複雑だった。


「じゃあ、もしだぞ?」

「はい?」


「島の男が君に懸想したらどうする?」


緊張しながらもフレディーは真剣な表情で尋ねる。
どうして、こんなに必死なのか自分でもわからないが、聞かずにいれなかった。


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