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第一章国外追放

8.懐かしの味

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人は厳しい環境に身を置くと超人的な精神を得るのではないか。


アーデルハイドは改めて思った。
貴族令嬢の頃はとにかく苦行の日々で、耐えることが多かった。

まさしく滝に打たれ、修業をする僧侶の如くだった。


そんなわけで、多少の苦労でへこたれるなんてことはない。


「本当に大丈夫か、お嬢ちゃん。畑仕事は肉体労働だぞ」

「何でもござれです!その代りお給金を奮発してくださいね」

「中々言うな。いいだろう!働きが良ければ奮発だ」

「よっしゃぁぁぁあ!」


現在、農家で畑を耕す手伝いをすることになった。
肉体労働で逃げ出す人も多い為、働きによってお給金が変わって来る。



「まずは田植えをするために整えてもらおう」

「イエス!」


気合十分のアーデルハイドは田植えをす為に田んぼを整えて行く。


「おお、筋がいいっぺな」

「ありがとうございます」

「それに腰が決まっとる」


元はローカルな生活をして来たのでこの程度は余裕だった。


「じゃあ、次は田植えだ」

「待ってました!」


苗を渡される。

「この苗を時間内に植えてくれるか」

「お任せください!」


すぐに田植えを受けるべくポンポンと植えて行く。


「うぉぉぉぉ!!」

野太い声が響き、ポンポンと苗を植えて行く。


「なんと美しい植え方っぺ」

「おら達よりも上手に植えてるだよ?」


農家の子供達は丁寧に植えて行くが、田んぼはこぎれいにするよりも間を空けて植えた方が美しく見てるのだった。

しかもある程度は雑に植える方がいい。


「見事じゃ!」

「あの子は何処の農民だ…プロだな」


近くの農家は、アーデルハイドの動きに目を奪われ集まって来る。
とても素人の動きには見えなかったのだ。


「ハイジ、君は農民にでもなるのか?」

「それもいいですね?食べるのに困らないし」

「そっ…そうか」

泥だらけになりながらうっとりした表情をするアーデルハイドに呆れながらも可笑しくて笑ってしまった。


「ブハッ!」

「何がおかしいの?」

フレディーはこれまで出会った女性とはまるで異なり、おかしくて笑わずにはいられなかった。



程なくして昼食時になると。


「うちで取れた米だホシヒカリだ」

「コシヒカリじゃないんだ…」

「ん?どうした?」


前世で身近にあった米でも、若干名前が違うのだと思う今日この頃だった。


「どうした?」

「いいえ、いただきます!」


お皿に乗っているのは、懐かしのおにぎりだった。


「んー!美味しい!」

「お嬢ちゃん、豪快な食べ方をするな。嫁もフォークを使って食うのに」

「こうした方が美味しいです」


老人達は手で食べているが、他の若い女性達は手で食べずにフォークを使って食べていた。


「手で食べたほうが味が変わるし…梅干しが欲しい」

「あるぞ」

「え!あるんですか!ください!」

まさかあるとは思わず興奮する。
梅干しが入った壺を見ると酢漬けではなく本物の梅干しに感動する。


「えっぐ…えっぐ」


「ハイジ、どうしたんだ」

「美味しいよ‥すごく」


泣きながら懐かしの梅干を食べて涙を流していた。


「泣く程美味いか…そうか、そうか。なら全部持っていけ」

「母ちゃん!」

「おらは、美味しいって食ってくれる人に食べて欲しいだ」


根っからの農民である老婆は、米も麦もすべて丹精込めて作っていた。
都会では安い値段で取引され、捨てられることもあるのが悔しかったが、アーデルハイドのように喜んで食べてくれる方が嬉しかった。

「そだな、俺もだ」

「父ちゃん!」

「おら達が作った野菜を美味しいと喜んでくれる人に食って欲しいな」


彼等は、自分達が心込めて作った作物でここまで喜んでくれるなら、こんなに嬉しいことはない。


「おじさん、おばさん…」

「フレディー…あのお嬢さんは故郷の味を恋しがってるんじねぇか?おにぎりを食べる目を見てたら解るべ」

「遠い所からこんな辺境まで来たんだ。余程の事情があるじゃねぇか」


老夫婦は色んな人を見て来た。
移住してきた者や冤罪をきせられ、島流しになった人間。


中には本当に悪いことをした人間もいたが、罪を犯しているかいないかなんてすぐに解るのだ。


「きっと悪い人達に騙されて連れてこられたんじゃねぇか?可哀想にな」

「何時も真面目に働いている人間が損をしてズルをして悪いことをする人間が得をするんだ」


世の中は本当に不公平だと思わざるをえない二人にフレディーは拳を握る。


「せめてここにいる間は笑って過ごして欲しいな」

「ああ」

優しい老夫婦はアーデルハイドを不憫で仕方なかった。


「任せてくれ、彼女は俺が守る」

「そうか、頼んだぞ」


元から正義感が強いフレディーは決意した。


初めて会った時から、アーデルハイドに興味を持ち。
今日まで一緒にいたが、見ていて放って置けないと思っていた。

その気持ちがなんなのかまだ解からないが、面倒見がいい性格だったので放って置くなんてできず世話を焼くことにした。



‥‥が本人はというと。



「おいしい…お米だ。夢に見た愛しいお米ちゃん」

アーデルハイドは前世で食べた懐かしのお米に感動していただけだった。



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