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第一章国外追放
6.馬車の中で
しおりを挟む侯爵家を出て直ぐ馬車で疲れた表情をするレイジ。
「大丈夫ですか?」
「すまん…」
少し興奮しすぎたのか、咳き込むレイジの背中を摩る。
「ハイジの事が心配でならん。私が国を空けていたばかりに」
「それが狙いだったのでしょう。御老公や私達が国を空けているのを狙ったのです。でなければこんな用意周到な真似はできませんわ…ええ、王妃様…伯母様が許すはずありません」
「そうだな」
フレイアの伯母は現在の王妃殿下に当たる。
「公衆の面前で女性の髪を切り落とすなんて…許せない」
「フレイア嬢…」
「以前から傲慢で馬鹿だと思っていましたが、アイシャの妄言を信じて、くだらない正義感を振りかざしたのでしょう?」
高位貴族として自尊心だけは無駄な高かったモーギュストであるが、その為の努力はまったくせず、嫌な事や面倒な事は婚約者に押し付け遊び歩いていた。
しかし、真面目で社交性のあるアーデルハイドは慈善活動も活発に行っていいたので聖職者からも受けが良く、ギルビット家でも一目置かれていた。
「ハイジの功績が妬ましくなったのでしょうね?ギルビット家の皆さんはハイジを褒めちぎっていましたし?その一方で、あの馬鹿の評価は最悪でしたわ」
「自分で蒔いた種だ」
「ギルビット侯爵夫人が真面な神経をお持ちならば、馬鹿息子を勘当なさいますわ」
「息子可愛さに庇えば、ギルビット家は没落まっしぐらだ。まぁ、両陛下不在中に侯爵家の息子如きがとんでもない事件を起こしたのだから、それだけでも落ち目だな」
どの道、ギルビット家が無傷でいられることは不可能だった。
あの場には学園の生徒が多く目撃しているし、侍女も傍にいたので証言を取ることもできる。
「アイシャは被害妄想が激しかったので、勘違いをあたかも真実のように言う癖がありましたわ。しかもお声が大きいので、大勢の前で追い詰める行為をしてました」
「嘆かわしいがな…」
「その都度、ハイジがフォローしては他家に頭を下げていたことを知っているのかしら?」
淑女教育をまったく受けず、我儘放題に育ったアイシャは社交場で問題を起こしてはアーデルハイドが後始末をして来た。
両親は姉が妹のフォローをして当たり前だと言っているが、限度がある。
「ハイジがいないばしょで、アイシャが泣けば、ハイジの責任。勝手に転んで怪我をしても、ハイジが悪いってどういうことなのかしら」
「頭に蛆虫が涌いているのは親の方だろうな」
馬車の中でどんよりした空気が流れる。
気落ちしている場合ではないのだが、暗い気持になってしまう。
「今はハイジの事を考えましょう」
「そうだな」
この際、アイシャや馬鹿な両親の事は捨ておけばいい。
数日後には醜聞となってしまうが、現役を退いたレイジからすれば王都を出てしまえば痛くもかゆくもない。
今最優先するのはアーデルハイドの安否確認だけだったのだから。
ただし、フレイアは別だった。
大切な親友を傷つけボロ雑巾のような扱いをして捨てた元婚約者と最低な家族をこのまま没落程度で終わらせてやる気は無い。
「じっくり料理してあげる」
レイジに聞こえないように静かにそっと囁くのだった。
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